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89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争

第89話
ボーアの相補性原理とハイゼンベルグの不確定性原理



量子力学の解釈を巡って繰り広げられたアインシュタイン(1879年-1955年)とボーア(1885年-1962年)の論争, すなわち、
  • 1927年(第5回ソルヴェイ会議)から1935年(EPR論文とそれに対するボーアの反論)に及ぶこの論争

は、20世紀前半の科学史を飾る象徴的な出来事として有名である。

しかし、この論争は、「物理学内の論争」と理解しないほうが良い。 当時、量子力学の先頭を走っていたのは、ハイゼンベルグ、パウリ、ディラック、フォン・ノイマンで、アインシュタインとボーアは既に大家であり、アインシュタイン × ボーア論争では、一歩引いた位置からの二人の世界観をぶつけ合ったと思うからである。たとえば、この論争の中では、「ボーアの相補性」と「ハイゼンベルグの不確定性原理」が頻出するが、二人の大家はこれらの「原理」を気分的な理解で使っていると思う。 なぜならば、
  • ボーアの相補性原理(や「粒子か、波か」等)は、フォン・ノイマンの「量子力学の数学的基礎(1933)」の中で自然解消された「原理」であり、今日的には「歴史的意義」以上の評価がされているとは思えない。
また、

そうならば、ハイゼンベルグの不確定性原理は、「量子力学の原理」ではなくて「量子力学の技術的なこと」なのだから、アインシュタイン × ボーア論争(すなわち、「量子力学の原理・哲学に関する論争」)に対して発言する力を持っていない。 量子力学の原理・哲学に対して発言する力を持っているのは、
  • 「量子言語」と「将来発見されるであろう量子物理学」

だけで、すなわち、「大きな物語(第4(下)話「言語ゲーム;量子力学」参照)」が完結された後だと思う。

「アインシュタイン × ボーア論争とは何だったのか?」は未だに一致した意見はないかもしれないが、事実だけを言うと
  • ボーアの下に集まった俊英たちによって作り上げらた量子力学に対して、アインシュタインがイチャモンを付け続けたが、ことごとくボーア陣営に論破された。 したがって、 論争はボーア陣営の勝利(アインシュタインの敗北)という空気が残った

である。
それでは、
  • なぜアインシュタインは、量子力学にイチャモンを付けたのか?

であるが、 これは簡単で、
  • アインシュタインは
    • 量子力学は物理学でない

    と思ったからである。

量子力学の普通の教科書では曖昧に書かれているが、突き詰めれば
  • 量子力学は、「測定者と測定対象」の二元論

である。 そうならば、量子力学は物理学であるわけがない、 とアインシュタインは確信したのだと思う。人間なんていなくても、量子現象はあるはずで、その現象を正確に記述したものが「真の量子力学」であるべき、と考えるほうが「アインシュタインの物理学」としては自然だからである。


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ボーア × アインシュタイン論争を、
  • 量子力学は、物理学か? 否か?

という論争と見なすならば、このブログ的には、
  • アインシュタインの勝利

となる。
もちろん、 脚色なしで言うならば、アインシュタインもボーアも、量子力学が物理学であることを前提に議論していて、
  • ボーアは、「物理学である」と主張して、 一方、アインシュタインは、「少なくとも、アインシュタインの物理学ではない」と主張した

というのが公平な見方でしょうね。

アインシュタイン × ボーア論争は、第64話の「ライプニッツ × クラーク論争(時空とは何か?)」と基本的には同じですね。 と言うより、「科学論争」なんて、突き詰めれば、
  • 実在的世界観 × 言語的世界観

しか無いのでしょうね。

ここで、「実在的科学観(アリストテレス派:世界が先で、言葉が後) vs. 言語的科学観(プラトン派:言葉が先で、世界が後)」の論争の主人公を以下の表にまとめておく:
(E)



この表の説明は、本ブログ全体を通して行うことで、今は深入りしない。 しかし、上の「アインシュタイン vs. ボーア」でもわかるように、 実在的科学観の刷り込み下にいる現代人にとっては、
  • 言語的科学観を素直に受け入れることは意外と難しい




科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)