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98: 主観的時間; 科学哲学論争;世界五分前仮説

第98話
科学に時制はない

科学哲学論争としての「時間の問題」は、次のように二種類ある。
(a):【測定対象の時空】:第64話の「ライプニッツ × クラーク論争(時空とは何か?)」、 すなわち、
  • 測定対象における「言語的時空の構成方法」

(b):【測定者の時空(主観的時空)】:第67話の「マクタガートのパラドックス」、 すなわち、
  • 測定者側の時空の非存在
である。
以下では (b):【測定者の時空(主観的時空)】 を議論する:
いろいろな「主観的時間」があるかもしれないが、ここでは、
  • 主観的時間=マクタガートのA系列の時間=測定者の時間=時制
として、話を進める。 これ以外の「主観的時間」は科学哲学の範疇でないことは明らかと思うからで、たとえば、
  • 久しぶりの同窓会で、あっと言う間に時間がたった
というような「主観的時間」は心理学の領域で、科学哲学の対象ではない。

測定者の時間(=時制=主観的時間)は、科学に取り込めない
ここでは、(b)を再考する。 さて、次の2つの文言を考えよう。
(a): 今日の天気予報で、明日の降水確率が70%だった
(b): 一昨日の天気予報で、昨日の降水確率が70%だった
の違いは、実生活では重要であるにしても、気象庁や気象予報士にとってはその違いは本質的ではない。
すなわち、
  • 科学に時制がない(「今」がない)

わけで、
  • 昨日、東京でリンゴが落ちても
  • 今日、ニューヨークでリンゴが落ちても
  • 明日、パリでリンゴが落ちても

    • それを「何時何処」で観測したか?

は問わない。
このように、量子言語の「言語的(コペンハーゲン)解釈」では、
  • 測定者に「時空」はない

と主張する。量子言語は「二元論」を露にするので、「測定者の時空」について述べなければならない。 つまり、
  • 測定者の時空の非存在
を強調しなければならない。


統計学は、「無時制」を強調しない
しかし、確率論は「二元論」を曖昧にしているので、ニュートン力学と同様に、「無時制」を強調しない。
このことを、下の「確率論(確率論の呪文の使い方のマニュアル)」で、再確認してもらいたい。
確率論(確率論の呪文の使い方のマニュアル)

まず、確率論は、

  • 【測度論】+ 【独立性】
と思っていいだろう。また、
  • 「大数の法則」、「中心極限定理」、「コルモゴロフの拡張定理」等の基本定理の精神
と言ってもいいかもしれない。


ここでも、確率論は「二元論(測定者と測定対象)」を露にしていないので、わざわざと「測定者の時空」を否定することをしていない。 というより、
  • 数学という言語に、「時制」などあるわけがない
のだから了解してもらえるだろう。


「主観的時間」という言葉遊びは楽しめる
アウグスティヌス(第31話:アウグスティヌスの時間論)」を源流とする
  • 「主観的時間」、「時制」、「測定者の時間」
等は、科学の領域には入り込むことはできなかったが、哲学者の興味を引き付け続けた。 哲学者たち(アウグスティヌスやベルグソン)が「私の時間」を文学的楽しみとして議論するのに「とやかく」言うほど狭量ではない。 
 たとえば、
(C1):
マクタガートの論拠は明確でないにしても、マクタガートの主張「第67話:マクタガートパラドックス」、 すなわち、
  • 主観的時間を認めると、時間は存在しなくなる

は、結論的には同調したくなる。 
また、バートラント・ラッセルの「世界五分前仮説」、すなわち、
(C2):
「世界は実は5分前に始まった」という仮説は否定できない
は、言葉遊びとしては、秀逸と思う。 折角の傑作なのに、「懐疑主義」などとくっ付けて提示されると、興ざめですね。
こういうのは、「言葉遊び」とか「落語のネタ」として楽しめばよい。 世界五分前仮説に乗せられて、「哲学的な何か」を発言してしまったら、周りはもっと笑ってくれるかもしれないが。



いまだに、「測定者の時間」に固執している科学者もいる
しかし、この「測定者の時間の問題」は、完全に決着が付いたわけではない。 たとえば、一部の研究者は、
(C3):
量子力学では、
  • 「測定者が測定した瞬間に、波動関数が収縮する」

と信じているかもしれない(第174話「射影仮説」)

量子言語の立場では、この(C3)は否定されるが、まだ決着が付いていないと考える研究者が少数派とも言えない現状にある。


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アインシュタインが相対性理論を提案したときに、ベルグソンがアインシュタインに論争を挑みましたが、アインシュタインは
  •  哲学者の時間はわからない
と言って、論争を拒否したのは有名な話です。 しかし、アインシュタインには論争を受けてもらいたかったですね。
  • 論争が実現したら、多分ベルグソンが一方的にしゃべって、アインシュタインは終始無言だったかもしれませんが、それでも実現して欲しかったですね。
それでも実現すれば、「私の時間(=主観的時間=測定者の時間)」について多くの研究者が注目したことは確実で、
  • 「マクタガートのパラドックス」=「科学における時制の非存在」

が早期に認知されたと思うからです



科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)