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37(下)帰納主義;イドラ;経験論の祖ベーコン

第37(下)話
科学の作り方:【イドラ + 帰納法】 


帰納主義の最重要キーワードは「イドラ(先入観・思い込み・信念・世界観)」である。
  • イドラとは、形而上学的命題のことで、 すなわち、実験で白黒を付けることができない命題のこと

である。 
帰納主義などというと、
  • 「黒いカラス、白いカラス」の話

を思い出すかもしれないが、こんなことを言い出したら、もう誰もこの先を読んでくれないと思う。

以上の注意の下に、以下を読んでもらいたい。

帰納主義(悪いイドラの排除)  

イギリスのフランシスコ・べーコン(1561年 - 1626年))は、帰納主義と呼ばれる「科学の作り方の方法」を、主著『ノヴム・オルガヌム-新機関』(Novum organum, 1620)で提示した。 帰納主義とは、下図を想定すればよい。

(A):
①悪いイドラの排除 
 ②データ 
③科学理論


これを説明しよう。

①:科学を始めるに当たって、まずイドラ(先入観・思い込み・信念・)を排除しなければならない。 ここにイドラとは、たとえば、次のようなものらしい:
  • 種族のイドラ:idola tribus 人間の脳回路・感覚器による思い込み
  • 洞窟のイドラ:idola specus 習慣・教育による思い込み 
  • 広場(市場)のイドラ:idola fori 言語による思い込み
  • 劇場のイドラ:idola theatri 思想・学説によろ思い込み(目的因とか天動説等)
②:このようなイドラを排除して、観測や実験などの事実を元にして、データを集めよ
③:このようにして集めたデータから共通本質を見出して、科学理論を作れ

である。 ここで、 「②+③」は帰納法(とかアブダクション)と呼ばれる。

アイザック・ニュートン(1643-1727) は
  • 「我は仮説を作らず」

と標榜し、 ベーコンの「帰納主義」を実践して、以下の図式(B)のようにニュートン力学を提唱したとされている。
(B):
①イドラの排除
(目的因・天動説)
 ②データ
(ガリレオ,ケプラー)
③科学理論
(ニュートン力学)


また、
  • 「イドラの排除」は、ジョン・ロックの「タブラ・ラーサ(白紙状態)」につながり

イギリス経験論の主流となった。


さて、
  • ベーコンにこう言われてしまうと、同意してしまうかもしれないが、「イドラの排除」には注意した方が良い

以下に、これを説明する。




デカルトの勘違い;方法序説のコギト命題(1637年)  

しかし、 デカルトは、ベーコンの『ノヴム・オルガヌム-新機関』を読んで、「トンデモない方向」に突っ走ってしまった。
  • ベーコンの言う「悪いイドラ」に陥らないためには、「疑いの余地の無い命題」からスタートすればよい

である。 これが、哲学史上最も有名な「コギト命題(=デカルトのイドラ)」:
  •  我思う。 我あり。 

である。そして、
  • このコギト命題から演繹されることは、確実に信用できる
と主張した。

今から思えば、「デカルトの勘違い」は明白で、 たとえば、
  • コギト命題「我思う。故に我あり」が疑う余地がないなどとは暴論で、実は「疑う余地が満載の命題」である。 この理由は後日に繰り返して述べる。
  • コギト命題「我思う。故に我あり」から演繹されることなど何も無い。 百歩譲って、何かが演繹されたとしても、それが科学であることなどあり得ない。 デカルトは、「神の存在」まで「演繹」してしまうが、「いい加減にしてくれよ」と言いたくなる

である。 事実
  • コギト命題が、科学的な意味で、科学に貢献したことなど一度も無い

と思う。 あるとしたら、 「社会的な意味」であって、 つまり、 キリスト教一極状態を多少緩和したしたことだろう。


科学のはずが、いつの間にか哲学へ  

しかし、 「事実は小説より奇なり」で、ベーコンやニュートンが予想しなかったことが現実には興る。 いわゆる、
  •  イギリス経験論 vs. 大陸合理主義 

の近代哲学の構図である。 
ベーコン=ニュートンの科学路線が、いつのまにか「哲学路線」に切り替わってしまった。 
デカルトは、
  • 「科学の作り方」の書『ノヴム・オルガヌム』を読んで、「哲学の作り方」を学んでしまった

ことになる。
と言うと皮肉に解されるかもしれないが、この路線変更の影には、「キリスト教の見えざる手」が働いていると邪推できなくもない。 キリスト教側から見れば、
  • ベーコン=ニュートンの科学路線は、スコラ哲学と距離が有りすぎて、将来的には、キリスト教の対抗勢力になる可能性がある

と思われたからである。

さてこうなると、
  • 不毛の議論が続く

と思うかもしれない。 実際に、多くは「不毛の議論」だったかもしれない。 しかし、さらに不思議なことは、結果的には、
  •  不毛な議論を通して、「二元論的観念論」の理解が深化されて、これが、科学の基盤を形作る 

ことになる。 これは本ブログのメインテーマに直結することで、後日に継続した議論を行う。



科学の本当の作り方


実は、話は単純ではない。 「良いイドラ(信念)」があるからである。
今度は、下図を想定すればよい。

(C):
①良いイドラの形成 
 ②データ 
③科学理論


アイザック・ニュートン(1643-1727) は
  • 「我は仮説を作らず」

と標榜したにも拘らず 「帰納主義(C)」を実践して、以下の図式(D)のようにニュートン力学を提唱したとも考えらる。
(D):
①良いイドラ
(数学と因果)
 ②データ
(ガリレオ,ケプラー)
③科学理論
(ニュートン力学)


こうなると、
  • 良いイドラ(=良い世界記述法)とは何か?

と問うかもしれない。 科学における最良のイドラは、
  • (アリストテレスの目的因にとって代わる)  因果関係
である。 「コギト命題」と「タブラ・ラーサ(白紙状態)」が 『ノヴム・オルガヌム(イドラの排除)』の影響下の仕事だったとしたら皮肉なことになる。
なぜならば、
  • イドラの排除を唱えたベーコンこそが、「因果関係という最良のイドラ」の発見者の一人だった
からである。

科学における最良の数量的イドラと言うならば、今のところ、「統計学」と答えることが常識的かもしれないが、本ブログの立場では、「量子言語」となる。


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ベーコンが本当に言いたかったことは、 多分
  • 悪いイドラ=キリスト教

なのだと思う。




科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)