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4(補):ソーカル事件の「脱構築」

ソーカル事件とは、ニューヨーク大学物理学教授のアラン・ソーカル(Alan Sokal、1955年-)が起こした『いたずら』で、下記の通り:

(A):ソーカル事件(1995年)


ソーカル事件とは、アラン・ソーカルの『いたずら』で以下の通り:

数学・科学用語を権威付けとしてでたらめに使用している哲学者を批判するために、1995年に、ソーカルは、

  • 科学用語と数式をちりばめた無意味な内容の疑似哲学論文を作成し、これを著名な評論誌(『Social Text』)に投稿した。掲載後にでたらめな疑似論文であったことを発表した。
である。

もちろん、フランス現代思想系の人文批評への批判として一石を投じるためである。



そして、 この『いたずら(A)』は次の準備であった。
1997年、ソーカルは(ジャン・ブリクモンとともに)『知の欺瞞』(Impostures Intellectuelles、) を著し、
  • 人文科学においては、権威づけだけの為に、科学用語を無意味に散りばめて読者を煙に巻いている
と、 哲学者、社会学者等を批判した。

: (B):知の欺瞞(抜粋)

(B1):われわれの目的は、まさしく、

  • 「王様は裸だ」と指摘する事だ。
我々は、哲学、人文科学、あるいは社会科学一般を攻撃しようとしているのではない。それとは正反対で、我々は、これらの分野がきわめて重要と確信している。 しかし、明らかに事実無根のフィクションと分かるものについて、この分野に携わる人々(特に学生諸君)に警告を発したいだけなのだ。
特に、ある種のテクストが難解なのは、極めて深遠な内容を扱っているからだという評判を『脱構築』したいのである。多くの例において、テクストが理解不能に見えるのは、他でもなく、中身がないという見事な理由のためだということを知っていただきたいのである

(B2):人文科学のあいまいな言説に数学的な装いを混入し、作品の一節に「科学的」な雰囲気を醸し出す技を駆使している

(B3):思想家や哲学者たちは、必要もないのに数式や数学的概念をいい加減に用い、記述を分かりやすくするどころか曖昧で難解にして無意味な言説に思想が有るかのようにレトリックを駆使している

(B4):化学や生物学にすら顔を出さない高級な数学的概念が思想や文学に奇跡的にも関係する、というような話は疑ってかかるべきだ


である。

以上であるが、
(C):ソーカルの意見は実にもっともなことと思う。 と言うよりも、「誰もがそう感じている」ことを、周到な準備(A)の下に、主張(B)を行ったところに、ソーカルのアイデアがあった。 もちろん、
    • 「大人げない」部分があるにしても、
    ソーカルの企ては完全に成功した。

    と思う。
    (D):ソーカルの標的となったフランス現代思想界(ポストモダン)の大物たち:
    • ジャック・ラカン、 ジル・ドゥルーズ、ジャック・デリダ

    等のソーカルへの反論は決して歯切れのいいものではなかった。 たとえば、
    • 「科学用語・数式は『比喩』 として、使った」
    だとしても、やはり、「言い訳」以上のものとは思えない。 ソーカルの言う通りで
    •  「中身のあること」ならば、背伸びした比喩など逆効果 

    で、「こういう『比喩』が通用する読者層だけを想定している」と思われるのは必定でしょう。

    である。
    たとえば、数学専攻の大学生(正確には、数学基礎論専攻の大学院生)ならば、
    • 「ゲーデルの不完全性定理」という単語を軽々しく使うな!
    は常識と思う。数学基礎論専攻の大学院生以上の実力がなければ、使いこなせない定理で、素人が背伸びして使っても、プロならば「背伸び」を直ちに見抜くだろう。 そして、「みっともなさ」だけが残る。 数学専攻の大学生ならば、このような常識は誰もが知っていて、「ゲーデルの不完全性定理」で馬脚を出すようなことはしないと思う。 哲学者が、「ゲーデルの不完全性定理」という言葉を使うとき、ゲーデルの不完全性定理の不理解だけでなく、このような常識すら知らないわけで、哲学者の頭はどうなっているのだろう。
    それにしても、
    • 数学や物理学の大学院レベルの専門用語を「比喩」として使って、適切な使い方であった例はあるのだろうか?
    と思ってしまう。

     (E):量子言語からのソーカル博士への反論 
    ソーカル博士は量子言語を批判しているわけではないので、ここでソーカル博士に対して反論するのはお門違いかもしれないが、 ポストモダン派の気分になって「反論」を書いておこう。

    (E1):量子言語は統計学と同等以上の中身がある。

    したがって、(B4)の批判は的外れになる


    (E2):量子言語の定式化にはヒルベル空間論というそれなりの抽象数学が不可欠である。
    したがって、化学や生物学にすら表面上は顔を出さない数学が哲学と奇跡的に関係する場合もある。 もちろん、(B4)の「まずは、疑ってかかるべき」は正論ですが。


    (E3):量子言語の議論の中では、「量子力学」が頻出するが、これは『比喩』ではない。
    すなわち、 「量子力学の本質は、量子言語なくして語ることができない」と主張しているわけで、(D)のような言い訳はしない(第10話「二元論・観念論」参照)。

    (E1)-(E3)の説明は、本ブログ全体で行なうことになる。


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    「何が言いたいのか?」と言われそうですが、 結局、 言いたいことは、
    • ソーカル先生。 そんな堅いことは言わないで、
      ポストモダンのような言葉遊びを楽しむ文化があってもいいじゃないですか
      哲学と物理学では、「わかる」の意味が違うのですよ。

    しかし、どうせ批判をするならば、ソーカル事件を「脱構築」して、
    • 今度は、量子言語という言葉遊びを批判してくださいよ

    でしょうか。 
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    数学に対するコンプレックスなど誰もが持っている。 経済学のある分野では、不必要に抽象的な数学を使うことが一流の証のような風潮すらあるが、 そうならば、 その分野はあまり重要でない分野なのだと思う。 数学者の間にも複雑に絡み合ったコンプレックス感が充満しているわけで、数学コンプレックスは研究者の性かもしれない。 10年ぐらい前に、数学の不得意な数学専攻の学生に、「なんでそんなに数学が不得意なのに、数学系を専攻したのか?」と聞いたことがあった。 学生に、「数学が得意ならば、医学部に合格していますよ」と言われて、 妙に納得してしまったことがあった。 そうならば、医学部の学生は数学のことをどう思っているのだろうか? 
    本人の意図とは裏腹に、見っともなくないように数学用語を使うのは結構難しい。 それなりの大学の数学科の修士卒業者の中で上位2割に入っていなければ、日常会話(とか哲学の会話)の中で数学・論理学用語を使わない方が安全と思う。 野球の上級者ならば、少年野球の2,3球のキャッチボールで少年たちの実力を見通すことができるのと同じである。



  • 科学哲学(二元論的観念論)

    量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

    目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)