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量子力学入門 : ヒルベルト空間法

150:量子言語・量子力学再入門
量子力学を理解するためには、量子言語から始めるのが王道で、しかもこれが一番手っ取り早い。 以下に、「量子言語のすべて」を説明する。
量子言語

測定理論(=量子言語)は、「2つの呪文(言語ルール1 と2)」と「言語的コペンハーゲン解釈」からなる。 すなわち、


測定理論
  (量子言語) 


=


   
 測定 
(言語ルール1)

+
   
因果関係
 (言語ルール2)




ここに、 β=
第65話「コペンハーゲン解釈」
言語的解釈 
(測定・因果関係の使い方」)


以下に、測定(=言語ルール1)と因果関係(=言語ルール2)についてかなり厳密に説明する。

数学的準備(線形代数の初歩)
このブログは、数学封印の約束だったが、高校数学ぐらいは使いたい。

C を複素数体とする.Cnを n 次元複素数空間、B(Cn)を"n×n複素行列全体",e_k(∈Cn)を以下のようにさだめる。
(A):  Matrix.jpg

Cn内に,内積 •,• とノルム || • || をそれぞれ
  • u,v =u1v1+・・・+unvn , ||u|| = |‹u,u›| 1/2  
    (∀u, ∀v ∈ Cn、 ここに、"∀"=「for any」 )

によって定める (uk は uk の共役複素数).H = Cn を n 次元ヒルベルト空間と もいう.n = ∞ の場合も頻出で、無限次元ヒルベルト空間Cの定義は、
\begin{align} & \small{{\mathbb C}^{\infty}}
\\
=
& \small{
\{u= [u_k]_{k=1}^\infty : \|u\|=[\sum_{k=1}^{\infty} |u_k |^2 ]^{1/2} < \infty \}
}
\end{align}
であるが、これは大学数学なので、ここでは,n < ∞ とする。

T ∈ B(Cn ) は,次の 2 つの条件 (i) と (ii) を満 たすとき,非負エルミート行列と言い.T ≧ 0 と書く。
(i) T はエルミート行列,つまり,T = T ,(ここに,T は Tの共役転置行列)
(ii) u,Tu ≧ 0 (∀u ∈ Cn

量子言語の分類
A (⊆B(Cn))を基本代数(=作用素代数)とする。とは言っても、次の二つの場合「①と②」しか考えない。
したがて、測定理論(=量子言語)は次の分類をもつ。
(B): 測定理論(=量子言語)
={
①:量子測定理論  (A=B(Cn)のとき)

②:古典測定理論 (A=BD(Cn)のとき)
 


ここで、BD(Cn)="n×n対角行列全体"。


測定:言語ルール1

(C): 観測量
A (⊆B(Cn))を基本代数とする。 (X, P0(X) )を可測空間とする。 すなわち、Xは測定値空間と呼ばれる集合、 P0(X) (⊆"Xのベキ集合"= P(X)=2X ={Ξ : Ξ⊆ X})は、集合算(和(Ξ1∪Ξ2)、積(Ξ1∩Ξ2)、補集合Ξc)に関して閉じている。 面倒ならば、「X="有限集合"、 P0(X) =P(X)」と思って読めばよい。

3 つ組 O = (X, P0(X) ,F) は,次の (i) と (ii) を満たすとき,A 内の(X-値)観測量と呼ばれる.すなわち,

(i:正値性) F : P0(X) → A で,F (∅) = 0(= 零行列),F (X ) = I (= 単位行列),任 意の Ξ ∈ P0(X)に対して F (Ξ) は非負エルミート行列
(ii:有限加法性) 任意の Ξ12P0(X),(Ξ1∩Ξ2=∅)に対して、
  • F(Ξ1∪ Ξ2)=F(Ξ1)+F(Ξ2

(この辺りでは、「有限加法性」で十分で、「加算加法性」は先の話で今は無視)
また,観測量 O = (X, P0(X),F)は,F (Ξ) = (F (Ξ))2(for any Ξ∈ P0(X) ) を満たすとき,射影観測量 と呼ばれる.


(D): 状態
u, v (∈ Cn)に対して、 u・v*がn×n行列になることに注意せよ(行ベクトルv*は列ベクトルvの共役転置)。 u・v*を|uv|と書くこともある。すなわち、
  • u=|u は列ベクトル、 v*=v| は行ベクトル

と思えばよい。
基本代数A (⊆B(Cn))を考える。 状態空間Sp(A)を次のように定める。

  • $\small S^p(A)
    =\begin{cases} \{ u \cdot u^* \; | \; u \in C^n, ||u||=1 \} \\
    \qquad \qquad (A=B(C^n) \mbox{ のとき})
    \\
    \{ u \cdot u^* \; | \; u \in \{ e_1, \cdots, e_n \} \} \\
    \qquad \qquad (A=B_D(C^n) \mbox{のとき})
    \end{cases}$
    ここに、 ek(k=1,2,...,n)は(A)で述べた基底とする。


u・u* (∈Sp(A))を状態と呼ぶ。

上述の準備の下に,次の「ボルンの量子測定理論(1926 年)」の「言語ヴァージョン」を得る.ボ ルンの量子測定理論は 20 世紀の科学上の発見の五指には確実に入る偉業である.
(E):測定(=言語ルール1)

基本代数A (⊆B(Cn))を考える。 状態u・u* ∈Sp(A)をもつシステムに対して、A内の観測量 O = (X, P0(X) ,F)を測定したとき、測定値x(∈X)がΞ(∈ P0(X) )に属する確率は

  • u,F(Ξ)u

で与えられる。



因果関係:言語ルール2
さて、 言語ルール2の説明であるが、まず、
A₁(⊆ B(Cn))とA₂(⊆ B(Cm))) をそれぞれの基本代数とする。順序関係「1<2」を考える。
線形写像Φ:A₂→A₁がマルコフ写像であるとは、次を満たすことを言う:
  • T ≧ 0 ⇒ Φ(T) ≧ 0、  Φ(単位行列)=単位行列

さて、以上の準備の下に、次を主張する。 時間発展は因果関係の時間的連鎖なので、下記はハイゼンベルグの量子運動方程式(とこれと同値なシュレーディンガー方程式)からその根源的な部分(特に、ハイゼンベルグ描像)を抽出したものである。
(F): 因果関係(=言語ルール2)

因果関係は、マルコフ写像で記述する




測定理論の主張は、
(G):
上の「測定(=言語ルール1)」と「因果関係(=言語ルール2)」は、呪文であって、その使い方は「コペンハーゲン解釈(第65話「コペンハーゲン解釈」)」というマニュアルに従え

である。
量子現象を、量子測定理論で記述すれば、量子力学ができあがる。
したがって、量子力学を理解するためには、
(H1):
このページに書いたこと(量子言語という言語)を理解する。 「理解」と言っても呪文だけなのだから、「数学的理解」と「呪文の丸暗記」だけでよい。
(H2):
次に、量子言語を骨格的言語と考えて、この言語の下に量子力学の簡単な演習問題を多く解く
(H3):
さらに、古典測定理論の下に、統計学・古典システム理論の演習問題を数多く解く
(H4):
さらに、(H2)と(H3)を交互に繰り返し演習して、量子と古典の垣根を取っ払う

である。(H1)を強く意識していないと、「木を見て森を見ず」となる。 この意味では、このページのタイトルは「量子力学入門」でも「量子力学入門」でも可で、量子力学の上級者も(H1)-(H4)を実践して、「コペンハーゲン解釈」の意味を理解すべきと思う。
そうすれば、
(I1):
コペンハーゲン解釈は、「量子物理という物理」にくっ付いているいるものではなくて、本来は「量子言語という言語」にくっ付いているものであることが、明確に理解できる

はずで、したがって、
(I2):
相対性理論には「解釈」など無いのに、量子力学には、なぜ「解釈」があるのか?または、量子力学は、なぜ多くのパラドックスを持っている「トンデモ理論」なのか?

がわかると思う。




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ヒルベルト空間による量子力学の定式化は、
  • フォン・ノイマン:『量子力学の数学的基礎』(1932年)

による。 これはニュートンのプリンキピアに匹敵するぐらいの名著である。 しかし、 今から思えば、作用素代数の創始者でもあるフォン・ノイマンならば容易なことだったと思うが、
  • 『量子力学の数学的基礎』の付録に2ページぐらいで、「量子力学の作用素代数への拡張」を書くべきだった

と思う。そうすれば、歴史は変わっていたかもしれない。


科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)