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スピン角運動量 ;量子力学再入門 (分かるとは計算できること)

154:エルミート演算子を射影観測量と見なす

次はすべて同じとする
  • エルミート演算子、エルミート行列、物理量

これらの重要さは、以下のスペクトル分解定理によって、射影観測量とつながることにある。

エルミート行列を射影観測量と見なす
(A):エルミート行列の対角化定理(スペクトル分解定理)

T ∈ B(Cn )(="n×n 行列全体の集合") とする。 このとき、次の(A1)と(A2)は同値である。

(A1):Tはエルミート行列、 すなわち、 T=T*

(A2):実数列:x1 < x2 <・・・< xm とスペクトル分解{F1,F2,...,Fm}( ⊆ B(Cn), つまり、射影行列Fkは、F1+F2+...+Fm=I を満たす)をうまく選んで

  • T=x1F1+x2F2+...+xmFm

とできる。
ここに、xjはTの固有値、Fjは固有値xjの固有空間への射影作用素



上で、
  • XT ={x1. x2, ..., xm}
    P(XT)="XTのベキ集合(power set)"={Ξ : Ξ⊆XT}

として、FT: P(XT) → B(Cn)を次のように定める。
  • FT(Ξ)=Σxk∈ Ξk (for all Ξ ∈ P(X))

(FT(Ξ))2=FT(Ξ)だから、FT(Ξ)は射影行列。
よって、OT=(XT, P(XT), FT) はB(Cn )内の(XT-値)射影観測量になる。


(B):エルミート行列⇔射影観測量
上で示したように、
  • エルミート行列Tから、
    射影観測量OT=(XT, P(XT), FT)を構成できる

逆に、
  • 射影観測量OT=(XT, P(XT), FT)があれば、
    T=x1FT ({x1}) +x2FT({x2}) +...+xmFT({xm})
    と計算して、エルミート行列Tを得る。

したがって、次の同一視:
(B1):     T ⇔ OT
に注意せよ。

ボルンの測定理論

次を思い出しておく。 上の(B)の記号の下に、
(C):測定(=言語ルール1)

基本代数B(Cn)を考える。 状態u・u* ∈Sp(B(Cn))をもつシステムSに対して、B(Cn)内の射影観測量OT=(XT, P(XT), FT)を測定したとき、
すなわち、
(C1):
測定MB(Cn(OT, S[u・u*])を行なったとき、


  • 測定値x(∈X)がΞ(∈P(XT) )に属する確率は
    u,FT(Ξ)u

で与えられる。

同じことで(同一視(B1)の下で)、
(C2):
測定MB(Cn(T, S[u・u*])を行なったとき、


  • 測定値x(∈X)がΞ(∈P(XT) )に属する確率は
    u,FT(Ξ)u

で与えられる。



したがって、測定値の期待値E(u・u*;OT)は、
(D1):E(u・u*;OT
=Σk=1,2,...,m xku,FT({xk})u=u,Tu

またその分散σ2(u・u*;OT)は
(D2):σ2(u・u*;OT
=Σk=1,2,...,m |xk- u,Tu|2u,FT({xk})u
=Tu,Tu-|u,Tu|2

となる。

次の不等式は、後の「ハイセンベルグの不確定性原理」のページで使う。

(D3):ロバートソンの不確定性関係
σ(u・u*;OT) ×σ(u・u*;OS) ≥|< u, (TS-ST)u> |/2

が成立する。


例: パウリのスピン行列
さて、次は事実である
(E1):電子はマイナスの電荷を持っている
(E2):電子はミクロな磁石のような性質を持っている

そうならば、
(E3):電子は「独楽のように自転(スピン)」をしている

と思いたくなる。 もちろん、ミクロな世界では「日常的な自転のイメージ」を放棄しなければならないが、

回転(スピン)の状態は、状態u・u* ∈Sp(B(C2))で表すことができる。 ここに、



この「回転軸」が、ある方向(たとえば、x軸方向)に関して、「同方向(正)か逆方向(負)」を知るためには、次のx-軸に関するスピン行列を測定すればよい。



さて、


とすれば、スペクトル分解:


を得るから、射影観測量Ox=( {-1,1} , P({-1,1}),Fx)を次のように定めることができる。


したがって、 言語ルール(C)によって、測定MB(C2(Ox, S[u・u*])を行なったとき、


(F1):測定値1(∈{-1,1})が得られる確率は

(F2):測定値-1(∈{-1,1})が得られる確率は




y軸方向(or z軸方向)のスピン行列として、次がある
      

さて、





とすれば、スペクトル分解:




を得る。対応する射影観測量Oy=( {-1,1} , P({-1,1}),Fy)と量Oz=( {-1,1} , P({-1,1}),Fz)を計算するのは簡単すぎだろう。


(G):交換関係
また、 次の交換関係は、注目に値する。



物理学と離れても、2×2行列に関する数学の定理としても、最重要と思う。しかも、この定理は物理学を全く知らない中学生でも発見できる。

(H): 問題
さて、上の(G)の交換関係を「数学的に美しい」と思ったとしよう。 そうだとすれば、次の問題を追究したくなる。
(H1):問題(正準交換関係)

(G)よりももっと美しくてシンプルな次の関係(正準交換関係)を満たすエルミート演算子 Q, P (∈B(Cn))は存在するか?

  • QP-PQ=i I



実は、このようなQ,P(∈B(Cn))は存在しない。 
しかし、n=∞のときは、Q,Pは(一意に)存在して、
  • Q: 位置エルミート演算子、 
    P:運動量エルミート演算子

と呼ばれていて、 これは量子力学の最重要エルミート演算子になる。 これについてはその内述べるが、 この定理のポイントは、やはり、物理学を全く知らなくても発見できることだと思う。
そうだとすれば、たとえば、(G)とか(H1)から、
(H2):  数学的に美しい結果は、かならず量子力学でも本質となる
と安直に信じたくなる。 これは、
  • 「数学だけを知っていればよい」
    「数学が、物理学に先行する」


という「危険思想」につながるが、この信念(H2)は「量子力学のヒルベルト空間法」に関する限り的外れとは(このブログ的には)言えない。 なぜならば、このブログの主張は、アインシュタインの「量子力学は物理でない」とか言語哲学(ソシュール、ウィトゲンシュタイン)の「言葉が先で、世界が後」だからである。
「危険思想」を強調するつもりはないが、
  • ヒルベルト空間論は奇跡の数学で、
    つまり、「現代の神学」である


を信じ込めば、「量子言語」を強くアピールできる。



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2500年前に、パルメニデスは(第17(上)話「パルメニデス」参照)
(I1):  「感覚」など当てにするな。「理性」だけを信じよ。 分かるとは計算できること

と主張した。
さて、上記のように、スピンとは古典的対応物のない不思議なものと思うかもしれない。
(I2):  スピンの測定値は「1(右回転)]と「-1(左回転)」だけで、回転の勢いを考えないのは不思議な感じがするとしても、これが量子力学なのだから仕方が無い。

そうならば、パルメニデス哲学が一番よくわかる例は、量子力学となる。量子力学においては、
  • ミクロの世界での「感覚」など我々は持ち合わせていない

のだから、量子力学の主張は
(I3):  「粒子か? 波か?」とか「自転するとかしない」などの「日常言語的感覚用語」の言葉遊びをするな。「計算可能な仕組み(量子力学の計算)」だけを信じよ。

なので、ほとんど、「(I1)=(I3)」なのです。 
結局、
(I4):  古典系の対応物が量子系にあるとは限らない。
量子系の対応物が古典系にあるとは限らない。

で、2500年の時間を経て得た進展は、
  • 「計算可能な形式をもつこと」だけ

だと思う




科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)