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同時測定と可換条件: 量子力学再入門

158:測定は一回だけ(コペンハーゲン解釈)

「量子測定」の復習を以下のように述べる。 数学の部分は、「高校数学」以上のものではないことを確認してもらいたい。
(A):エルミート行列を射影観測量と見なす
エルミート行列A ∈ B(Cn )(="n×n 行列全体の集合")をB(Cn )内の射影観測量OA=(ΛA={λ1. λ2, ..., λm}, P(ΛA), FA )と同一視する。 すなわち、

(A1):

A
(エルミート行列) 

同一視


      
OA=(ΛA, P(ΛA), FA
(射影観測量)




で、この意味は、
(A2):
実数列:λ1 < λ2 <・・・< λm はAの固有値、FA({λk})は射影行列で、

  • A=λ1FA({λ1})+λ2FA({λ2})+...+λmFA ({λm})

と表現できる。
(A3):FA(Ξ)=Σλk∈ Ξ FA({λk})
(for all Ξ ∈ P(ΛA)(="ΛAのベキ集合"))
であり、 したがって、エルミート行列を「物理量」と呼ぶこともある。

(B):量子測定とコペンハーゲン解釈
量子力学は、ボルンの量子測定とシュレーディンガー方程式という二つの法則とその使い方のマニュアル(コペンハーゲン解釈)から成る。 以下の通りである。
(B1):

量子力学
  (物理学) 


=


(ボルン)
(B3):測定
(確率解釈)

+

(シュレーディンガー)
因果関係
(運動方程式)




ここに、α="コペンハーゲン解釈"で、たとえば、
(B2):
測定は、一回しかできない 

は、(言語的)コペンハーゲン解釈のメインの主張である。
また、
(B3):測定(=ボルンの量子力学の確率解釈)

測定MB(Cn(OA, S[u・u*])、 すなわち、

(B4):
状態u・u* (ここに、u∈Cn, ||u||=1)を持つシステムSに対しての観測量OAの測定
を行なったとき、測定値x(∈ΛA)がΞ(∈ P(ΛA))に属する確率は
  • <u,FA(Ξ)u>
で与えられる。


また、同一視(A1)の下に、
(B4):
MB(Cn(OA, S[u・u*])=MB(Cn(A, S[u・u*]

と書くこともある。


(C):二つのエルミート行列AとBの同時測定
身体検査で、たとえば」、X君の「身長」と「体重」の二つを知りたいという設定は、古典システム系では普通である。 量子系では、二つのエルミート行列(=物理量)AとBを考えることになるが、これは次の問題を提起する。
(C1):問題(同時測定)


二つのエルミート行列(=物理量)AとBを考える。 このとき、二つの測定:

  • MB(Cn(A, S[u・u*])  と MB(Cn(B, S[u・u*]

を行ないたい。 しかし、コペンハーゲン解釈(B2):
  • 「測定は一回しか出来ない」

によって、二つの測定は禁じられている。 さて、そうだとしたら、二つの測定を同時に行って一回で済ませなければならない。 したがって、我々の当面の問題は、
  •   そんなことは可能なのか?  

とか、
  •   可能だとしたならば、どうすれば実現できるか?  

である。


解答
  • AとBが可換(AB=BA)ならば、可能

以下にこれを示す。
  Aの観測量表現をOA=(ΛA, P(ΛA), FA
  Bの観測量表現をOB=(ΛB, P(ΛB), FB
とする。
AとBが可換とする。
OAとOB同時観測量O(A,B)=(ΛA ×ΛB , P(ΛA ×ΛB ), FA ×FB ) を以下のように定める。
(D1):ΛA ×ΛB={(x,y) : x∈ ΛA , y ∈ΛB }
(D2):FA ×FB:P(ΛA ×ΛB ) →B(Cn)を次のように定める。
  • (FA ×FB)({(x,y)}) =FA({x}) ×FB({y})
    (for all (x,y) ∈ ΛA ×ΛB

ここで、測定MB(Cn(O(A,B), S[u・u*])を二つの測定: 
  • MB(Cn(A, S[u・u*])  と MB(Cn(B, S[u・u*]

の同時測定と見なせばよい。
次の例(E)を見れば、上の議論は容易に理解できるだろう。




(E):同時測定の例((F)-(H))

準備(F):スピン行列A
次のようにx-軸に関するスピン行列Aの復習から始める。


さて、スペクトル分解:



を得るから、射影観測量OA=( {-1,1} , P({-1,1}),FA)を次のように定めることができる。



ここで、



とする。したがって、 ボルンの量子測定(B3)によって、測定MB(C2(OA, S[u・u*])を行なったとき、


(F1):
測定値-1(∈{-1,1})が得られる確率は
\begin{align}\small{ \langle u , F_A (\{-1\}) u \rangle =|\alpha -\beta|^2 /2 }
\end{align}
(F2):
測定値1(∈{-1,1})が得られる確率は
\begin{align} \small{\langle u , F_A (\{1\}) u \rangle =|\alpha + \beta|^2 /2 }
\end{align}

となる。

準備(G):エルミート行列B
次のエルミート行列Bを考える。


さて、スペクトル分解:


を得るから、射影観測量OB=( {-1,3} , P({-1,3}),FB)を次のように定めることができる。


したがって、 ボルンの量子測定(B3)によって、測定MB(C2(OB, S[u・u*])を行なったとき、


(G1):測定値-1(∈{-1,3})が得られる確率は

(G2):測定値3(∈{-1,3})が得られる確率は


となる。

(H):AとBの同時観測量
上で、AとBは可換(すなわち、AB=BA)であることに、注意せよ。
OAとOB同時観測量O(A,B)=(ΛA ×ΛB , P(ΛA ×ΛB ), FA ×FB ) を以下のように定める。
(D1):ΛA ×ΛB={(-1,-1), (-1,3), (1,-1),(1,3) }
(D2):FA×FB:P(ΛA ×ΛB ) →B(Cn)を次のように定める。
  • (FA ×FB)({(x,y)}) =FA({x}) ×FB({y})
    (for all (x,y) ∈ ΛA ×ΛB

これを計算して、


したがって、 ボルンの量子測定(B3)によって、同時測定MB(Cn(O(A,B), S[u・u*])を行なったとき、


(H1):測定値(-1,-1)(∈{(-1,-1), (-1,3), (1,-1),(1,3) })が得られる確率は


(H2):測定値(-1,3)(∈{(-1,-1), (-1,3), (1,-1),(1,3) })が得られる確率は


(H3):測定値(1,3)(∈{(-1,-1), (-1,3), (1,-1),(1,3) })が得られる確率は



(H4):測定値(1,-1)(∈{(-1,-1), (-1,3), (1,-1),(1,3) })が得られる確率は

となる。


----------------
結局、
(I): AとBが同時測定可能 ⇔ AとBが可換

ですね。 そうだとしても、 
  • 「AとBが可換」でなくても、何らかの意味での同時測定をしたい

わけで、この方向をつき進めば、ハイゼンベルグの不確定原理にたどり着きますね。 しかし、これを述べるためにはもうすこし準備が必要になる




科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)