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ハイゼンベルグ描像・運動方程式

第178話
シュレーディンガー描像なんて妄想

力学における時間発展の理解の仕方は二つ(シュレーディンガー描像とハイゼンベルグ描像)ある。 力学の基本概念は、状態と観測量である。 したがって、時間発展を記述するためには、状態と観測量のどちらかが時間発展すると決めておかないと話が進まない。 さて、


(A1):   シュレーディンガー描像: 状態が時間発展すると考える
(A2):   ハイゼンベルグ描像:観測量が時間発展する

である。
普通は(すなわち、場の量子論でもやらない限り)、シュレーディンガー描像だけで十分で、

ハイゼンベルグ描像は格好付けの教養

というのが、量子力学に携わる大部分の工学系の研究者たちの雰囲気だと思う。 さらに言うならば、シュレーディンガーによって(最終的には、フォン・ノイマンによって)、
  • シュレーディンガー描像とハイゼンベルグ描像は同値

であることが証明されたと教わるのだから、ますますイメージが掴み易いシュレーディンガー描像だけで十分という空気が充満してしまっているのだと思う。
しかしながら、
  • 量子言語の言語的解釈では、「状態は動かない」なので、ハイゼンベルグ描像だけが必須で、シュレーディンガ描像は邪道となる

以下にこれについて述べておこう。

(E):シュレーディンガー描像とハイゼンベルグ描像は同値ではない

シュレーディンガー描像
時刻$t=0$での初期状態$|u_0 \rangle \langle u_0$の系が、ハミルトニアン${\mathcal H}$のシュレーディンガー時間発展すれば、


(F1):  時刻$t_1$で、状態は$|u_{t_1} \rangle \langle u_{t_1}|(=e^{- \frac{i{\mathcal H}t_1}{\hbar}}|u_0 \rangle \langle u_0| e^{ \frac{i{\mathcal H}t_1}{\hbar}})$に、
(F2):  時刻$t_1$で、状態は$|u_{t_2} \rangle \langle u_{t_2}|$($=e^{- \frac{i{\mathcal H}t_2}{\hbar}}|u_0 \rangle \langle u_0| e^{ \frac{i{\mathcal H}t_2}{\hbar}})$に、


となるだろう。 これはこれで正しい。

しかし、次の図3のような状況を考える。 すなわち、
(G1):  時刻$t_1$で、観測量${\mathsf O}_1$を測定して(すなわち、測定M1を行って)、
(G2):  時刻$t_2$で、観測量${\mathsf O}_2$を測定したい(すなわち、測定M2を行いたい)。

Heise3.jpg
図3:シュレーディンガー描像(S-Pic)

この場合、(G1)は(C1)と同じなので、OK.
しかし、(G2)は困る。なぜならば、

(H):  測定M3によって、WC(wavefunction collapse=波動関数の収縮)が起こって、測定後の状態$|?\rangle \langle ?|$が不明で、それ以後の状態のシュレーディンガー時間発展が定まらない。 これでは(G2),すなわち、 測定M4を定式化できない

からである。射影仮説を認めれば、ある程度は議論できるかもしれないが、それとて万能でない。 と言うより、射影仮説は「場合の手法」で、ここで取り上げるようなことではない。

そもそも、量子言語では、

測定は一回だけ

なので、図3の「M3とM4」は有り得ない。

ハイゼンベルグ描像

上のように、 シュレーディンガー描像では困難(H)にぶち当たってしまったが、ハイゼンベルグ描像ならばこの困難を解消できる。 以下にこれを説明する。

とは言っても、図4を眺めるだけで十分だろう。

Heise4.jpg
図4:ハイゼンベルグ描像(H-Pic)

一応、説明すると、

(I1):  時刻$t_2$の観測量${\mathsf O}_2$をハイゼンベルグ描像によって、時刻$t_1$に引き戻す。 すなわち、

\begin{align*}
\small{
\Phi_H({\mathsf O}_2)=(X_2, {\mathcal F}_2,e^{ \frac{i{\mathcal H}(t_2 - t_1)}{\hbar}} F_2 e^{- \frac{i{\mathcal H}(t_2 -t_1)}{\hbar}}) }
\end{align*}
とする。
この(11)と観測量${\mathsf O}_1$が可換ならば、時刻t1での観測量

\begin{align*}
&
\small{{\mathsf O}_1 \times \Phi_H({\mathsf O}_2 )}
\\
=&
\scriptsize{(X_1 \times X_2, {\mathsf F}_1 \times {\mathcal F}_2, F_1 \times e^{ \frac{i{\mathcal H}(t_2 - t_1)}{\hbar}} F_2 e^{- \frac{i{\mathcal H}(t_2 -t_1)}{\hbar}})}
\end{align*}
が定まる。 これをハイゼンベルグ描像によって時刻t=0に引き戻して、
\begin{align*}
\small
&\Phi_H({\mathsf O}_1 \times \Phi_H({\mathsf O}_2 ))
\\
=&(X_1 \times X_2 , {\mathcal F}_1 \times {\mathcal F}_2, {\widehat F}_0 )
\end{align*}
を得る。
ここに
\begin{align*}
&{\widehat F}_0(\Xi_1 \times \Xi_2)
\\
=&
\scriptsize{ e^{ \frac{i{\mathcal H}(t_1)}{\hbar}} \Big(F_1(\Xi_1) \times e^{ \frac{i{\mathcal H}(t_2 - t_1)}{\hbar}} F_2( \Xi_2) e^{- \frac{i{\mathcal H}(t_2 -t_1)}{\hbar}}) \Big)e^{- \frac{i{\mathcal H}(t_1)}{\hbar}} }
\end{align*}
それにしても、

 (14)の構成法の不自然さに違和感を
持って、「これが物理学か?」
 

と思うかもしれない。
そうだとしても、結果オーライで、ボルンの測定公理から次が言える。

(I2):  状態$| u_{0} \rangle \langle u_{0}|$を持つシステムに対して、観測量$\Phi_H({\mathsf O}_1 \times \Phi_H({\mathsf O}_2 ))$を測定する(図4のM5参照)。 このとき、測定値が$\Xi_1 \times \Xi_2 (\in {\mathcal F}_1 \times {\mathcal F}_2 )$に属する確率は
\begin{align*}
& \langle u_{0} ,{\widehat F}_0(\Xi_1 \times \Xi_2) u_{0} \rangle
\end{align*}
で与えられる。



 全体の結論 (シュレーディンガー描像は妄想)  

(J):  シュレーディンガー描像(状態の前進時間発展)は「場合の手法(=妄想)」であるが、

ハイゼンベルグ描像(観測量の後退時間発展)はalmighty

となる。



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2500年前のパルメニデスの主張は(第13話:パルメニデス;参照)

「イメージ」より「計算」を選べ

でしたね。したがって、

  量子言語では、ハイゼンベルグ描像だけ  

が原則ですね。 (K1)の意味で、
(L):  量子言語によって、「量子力学のすべてのパラドックス」を一挙に解いてしまう

というのが、このブログの構想ですね。 (第90話「二つの量子力学」参照)。

古典系では、カルマンフィルターの定式化には、ハイゼンベルグ描像が圧倒的に便利ですね


科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)