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量子デコヒーレンス

第176話
デコヒーレンスとはマルコフ型因果関係のこと


さて、ニュートン力学は次のように、二つの方向(「理論志向」と「応用志向」)に発展したと考えたい。
(A):ニュートン力学
\begin{align*}
\scriptsize{
\begin{cases} \underset{物理志向}{\mbox{[(A1):理論志向]}}:&\rightarrow \text{相対性理論} \\ \\ \\ \\ \underset{言語志向}{\mbox{[(A2):応用志向]}}:&\rightarrow \text{統計学(=動的システム理論)} \end{cases}
}
\end{align*}
ここで、「発展」と言ったのは、このブログ流の意味での「発展」で、特に(A2)の「言語化・道具主義化・脱物理化」に関しては異論があるかもしれない。 しかし、今どき、ニュートン力学そのものを研究している研究者はそんなに多くないという事実はある。
そして、ニュートン力学のキーワードは、「決定型可逆運動」であるが、応用志向(A2)においては、次のような概念を獲得した。

(B):  ランダム運動、ブラウン運動、不可逆運動、マルコフ型因果関係

と思う。 これらはみんなほぼ同値の概念であるが、理論志向(A1)の相対性理論が獲得した概念(光速不変等)と比べて、遜色ないと思いたい。 事実、相対性理論に関わっている研究者よりは、統計学に関わっている研究者の方が圧倒的多数であるわけで、「(B)は大発見・大発展」と思いたい。

さて、次は量子力学であるが、これも次のように、二つの方向(「理論志向」と「応用志向」)に発展したと思いたい。

(C):量子力学
\begin{align}\scriptsize{ \begin{cases} \underset{物理志向}{\mbox{[(C1):理論志向]}}:&\rightarrow \text{量子電磁気学等} \\ \\ \\ \\ \underset{言語志向}{\mbox{[(C2):応用志向]}}:&\rightarrow \text{量子言語} \end{cases}
}
\end{align}



もちろん、量子力学のキーワードも、「決定型可逆運動」であるが、応用志向(C2)の量子言語において獲得した概念が

(D):  量子デコヒーレンス(これはほぼ上の(B)と同じ概念)

である。 対応「古典系(B)≈量子系(D)」は重要で、我々の目的は、

量子言語によって、
「統計学」と「二元論的観念論の世界記述の哲学」を飲み込むこと

であったことを思い出そう。

以下に、量子デコヒーレンスについて述べる。







10.6.2: 量子デコヒーレンス: 非決定的因果作用素



$H$をヒルベルト空間とする。作用素空間$B(H)$内のスペクトル分解${\mathbb P}=[P_n ]_{n=1}^\infty$,  すなわち,


\begin{align*}
P_n \mbox{は射影作用素で}, \sum_{n=1}^\infty P_n =I
\end{align*}
とする.  $ {\mathcal Tr}(H)$をトレースクラスとする。写像$(\Psi_{\mathbb P})_*: {\mathcal Tr}(H) \to {\mathcal Tr}(H)$ を次のように定める:
\begin{align*}
(\Psi_{\mathbb P})_* (|u \rangle \langle u |) = \sum_{n=1}^\infty |P_n u \rangle \langle P_n u |
\quad (\forall u \in H)
\tag{1}
\end{align*}


このシュレーディンガー描像$(\Psi_{\mathbb P})_*$を前量子デコヒーレンスと呼び、そのハイゼンベルグ描像$((\Psi_{\mathbb P})_*)^*$を
$$\Psi_{\mathbb P} (=((\Psi_{\mathbb P})_*)^*):B(H) \to B(H)$$
で定める。 これは因果作用素であるが,決定的因果作用素ではない.
このような「非決定的因果作用素$\Psi_{\mathbb P}$」のことを,量子デコヒーレンスと呼ぶ.


数式だけになって、気が引けるが、 (1)式を見れば、
  • (前)量子デコヒーレンスとは、純粋状態を混合状態に変換する時間発展のことである。 これは不可逆過程である。

シュレーディンガー方程式で表現される時間発展は、必ず「純粋状態を純粋状態へ移す」わけで、これが普通なのだから、量子デコヒーレンスは非常に特殊である。

問題
ここで、 次の問題が発生する:
  • 量子力学において、量子デコヒーレンスは存在するのだろうか?

である。

---------------------
解答はわからないが、量子言語の立場なら次のように解答できる。
  • ニュートン力学の運動方程式もシュレーディンガー方程式も、可逆過程である。 しかし、ニュートン力学の応用版である統計学では、不可逆過程も扱う。 そうならば、量子力学の応用版である量子言語でも、量子デコヒーレンスを普通に使ってよい

である。
量子デコヒーレンスと「量子ゼノン効果」については、次を見よ:
【G】:量子言語:量子ゼノン効果:「見ていると餅はなかなか焼けない」わけではない


科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)