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EPRパラドックスの結末:量子力学の最終到達点

168: ボーア=アインシュタイン論争、EPRパラドックス、ベルの不等式、アスペの実験の終着点は量子言語

量子力学論争の現代的評価を、ポジティブかつ常識的な立場から言えば、
(A0):
量子論の本質をえぐり出して、(実在・非実在性のような)哲学的な命題を実験検証可能な形(ベルの不等式)で提示した

となるが、この定説を信じていいのだろうか? 「実在・非実在性」と言っても、アインシュタイン流(または、ベル流)の考えであって、「実在・非実在性」の一つの切り口にすぎない。 否定的な(または、冷静な)言い方をすると、「結局、ボーアは正しかった」で振り出しに戻ってしまったとも言えると思う。
「量子力学の深い理解を可能にした」という意見に反論しても水掛け論になってしまうが、逆の観点からは、「(振り出しに戻ってしまって)量子力学を一歩も前進させなっかた」とか「結局、アインシュタインは間違っていた」とも言える思う。 アインシュタインの立場から言えば、「折角、自分が量子力学に反対の立場からディベートに参加して盛り上げたのに、この終わり方では不満。 一歩も前進していない」と思うだろう。 この閉塞感を打破するのには、
  • 「実在・非実在性」の別の切り口の導入

が必要で、これについて、以下に議論する。

(A):量子力学論争では、まだ、「決定的な宣言」がされていない

さて、現代では、
(A1):
相対性理論において、「エーテル」を持ち出せば、変人扱いされる

ことは、事実としてある。
一方、ボーア=アインシュタイン論争で、ボーアの主張は、
(A2):
 量子論において、「実在性」を持ち出せば、変人扱いされる

べきであったのに、しかも、 「ボーア=アインシュタイン論争の勝者がボーアである」 ことは大多数の賛同を得ているはずなのに、未だに
  • ボーアの主張(A2)は、常識化されていない

と思う。
そうだとすると、(A2)の常識化のための先人の労作であったはずの次の「量子力学論争」と呼ばれる一連の仕事:

  • ボーア=アインシュタイン論争、EPRパラドックス、
    ベルの不等式、アスペの実験


は一体何だったのだろう。 すなわち、
(A3):
これらの仕事は、「実在性」を完全燃焼させて消滅させる試みだったはずなのに、いまだに、「燻っている」のは何故か?
「エーテル」は一考だされないのに、なぜ、我々は「量子力学論争」には興味を持ってしまうのか?


である。
この理由として、唯一考えられることは、
  • まだ、「決定的な宣言」がされていない

だと思う。 すなわち、
  • 我々は、まだ「一連の量子力学論争」を完全理解していない


である。
以下に、これについて書く。

(B):量子力学論争から量子言語へ
さて、このブログでは以下のような議論をした。
(B1):
[第162話:EPRパラドックス]では、「実在性」をアインシュタインがしたように正面から議論しても不毛として、「EPRと三段論法」との関係(すなわち、「量子系においては、三段論法が成立しない」)を議論した。 すなわち、論点をズラした。
(B2):
[第164話:ベルの不等式]でも、「古典系においても、ベルの不等式が破られる」ことを示すことだけに集中して、「実在性」の正面から議論についてはお茶を濁した。すなわち、論点をズラした。

要するに、

  • 我々は、「実在性」を正面から議論することを避けた


この理由は次の通りである。
(B3):相対性理論においては、「エーテル」に正面から議論することはしないで、「無視する・相手にしない」というスタンスをとるわけで、
そうならば、
量子力学においても、「実在性」に正面から議論することはしないで、「無視する・相手にしない」というスタンスをとる


と考えたからである。
このような準備の下に、結論を先に言おう。

  • 「非実在性」は議論することではなくて、
    宣言することである


と考える。
すなわち、
(B4):
「実在性・非実在性」を議論して、成功した哲学がかつてあっただろうか?
もしそういう哲学があったならば、アインシュタインはそれをEPR論文の中で言及したにちがいない。 しかし、これは、哲学が最も得意とするテーマのはずで、「宣言」ならばいろいろある。その主流は観念論の系譜で、現代的には、
  • 言語的世界観(「言葉が先で、世界が後」の精神)
である。

(B5):
量子力学論争の一連の「実在性・非実在性」の議論の中から、一つでも生産的なことが生まれたのだろうか?
「何も生産しなかった」と思う。 ベルの不等式を「科学の最も深遠な成果」と信じている物理学者がどれ程いるか知らないが、「深遠 or 否」は気分的なことでどちらでもいい。 重要なことは、「ベルの不等式に将来性があるかどうか?」で、これに楽観的な物理学者は滅多にいないと思う。

を考えれば、「根底からの考え直し」が要請されると思う。


ボーアの論証は完膚までにアインシュタインを打ち負かしたにも拘わらず、結局、
  • ボーアの主張に説得力が欠けていた 

わけであるが、その理由は、「ボーアよりアインシュタインのほうが有名だった」からでなくて、
  • ボーアは、「量子力学は物理学である」と思い込んでいた

からである。
すなわち、

  • ボーア=アインシュタイン論争、EPRパラドックス、
    ベルの不等式、アスペの実験、においては、
    「量子力学は物理学である」と思い込みの下に
    実在性を否定するような議論をしていた


からである。
一般の物理学者もこの思い込みに伝染してしまった。 この結果、ボーア最大の主張(または、科学史上最大の主張)である「コペンハーゲン解釈」の理解が曖昧・多義的になってしまって、今では、
  • コペンハーゲン解釈とは何か?

に誰も明快に答えることが出来なくなってしまった。
そこで、「非実在性(すなわち、『言葉が先で、世界が後』)」の精神に基づく:
  •  量子言語の提案 

というのが、このブログのストーリーであった。
そして、量子言語の主張は、
(C):
コペンハーゲン解釈とは、量子力学にくっ付いているのではなくて、量子言語という言語にくっ付いているのである[「第150話:ヒルベルト空間法」参照]

こう考えれば、コペンハーゲン解釈の従来の多義的あいまい性が解消できて、「一意」に決まる。 これが、言語的コペンハーゲン解釈であった。

まとめると、
  • 「量子力学は、物理学でない」と宣言すること

であって、
  • 「非実在性」に関しては、
    百の議論よりも、一つの宣言


である。 すなわち、次の宣言だけでよかった。
(D):世界記述法の分類


世界記述の哲学は次の分類を持つ[「第4(上)話:量子言語のすべて」参照]



世界記述法の分類{実在的世界記述法
言語的世界記述法
・・・物理学 
・・・量子言語

量子言語で、量子現象を記述すれば、量子力学が出来上がる



ここで、「実在的科学観(アリストテレス派:世界が先で、言葉が後) vs. 言語的科学観(プラトン派:言葉が先で、世界が後)」の論争の主人公を以下の表にまとめておく:
(E)



この表の通りだとするならば、

  • 結局、アインシュタインの言う通りで、「ボーアの量子力学」は「アインシュタイン好みの物理学」ではなかった

と言える。




--------------------------
したがって、
(F1):
「エーテル消去」の議論など混乱を招くだけで不要で、相対性理論の宣言だけで十分

と考えてよいならば、同様に、
(F2):
量子力学論争、すなわち、
  • ボーア=アインシュタイン論争、EPRパラドックス、
    ベルの不等式、アスペの実験
等の「実在性消去」の議論は混乱を招くだけで不要で、量子言語の宣言(D)だけで十分

と考えることには一理ある。

理系の学問としては珍しいことであるが、従来の量子力学の本には、ページの初めの部分に歴史的偉業が書かれていることが多い。 たとえば、
  • 「前期量子力学」、「ハイゼンベルグの不確定性原理」

等で、 いまから思えばこれらは各論の部分に書かれるべきことである(第166話:「ハイゼンベルグの不確定性原理」参照)。 しかし、このような文献学的傾向はそれなりの理由があるのだと思う。相対性理論のようにアインシュタイン一人が作り上げたものではなくて、量子力学の熟成には多くの人々が関与しているということだと思う。 そうだとしたら、相対性理論(物理学)と量子力学(このブログでは、言語)はまったく性格が異なる学問なのだから、本の構成も違っているのだと思う。 
しかし、量子言語の視点からは、量子論の全貌が鳥瞰できるわけで、このブログで推奨する「量子力学の学び方」は、第150話:「量子力学再入門」で述べたとおりである。


科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)