波束の収縮;射影公準
射影公準(=射影仮説 = projection postulate ); 波束(=波動関数)の収縮
量子力学の解釈には、奇抜なアイデアのものあってこの全貌を整理して見渡すことなど誰もできないと思う。 しかし、ザックリ言えば、量子力学の解釈は次の2つに分類できる。
- (A1):
- 射影仮説を採用しない(したがって、波束の収縮はない)
- (A2):
- 射影仮説を採用する(したがって、波束の収縮はある)
当然のことであるが、このような事実があるということは、量子力学の解釈問題が未解決であるということで、可能ならば(A1)と(A2)は雌雄を決すべきことである。
いわゆるコペンハーゲン解釈(=標準的コペンハーゲン解釈)は(A2)に属し、量子言語は(A1)流である。
正確には、量子言語は(A1)流で、波束の収縮は無いとするが、「波束の収縮もどき」はあると主張する。
したがって、
- 量子言語は、(A1)と(A2)の折衷案
(すなわち、$\frac{(A1)+(A2)}{2}$の微妙な立場)を主張する。
文献【B2】をここで説明するよりは、直接読んでもらったもうが手っとりばやいだろう。 しかし、 旧来の射影仮説の簡潔な説明を述べておく必要はあるだろう。
Hをヒルベルト空間とする。
たとえば、ヒルベルト空間Hの完全正規直交系 $ \{$ $ e_n$ $ \; | \; n=1,2,...\} $を考えよう。
X={1,2,...}, 2X="Xの部分集合全体"
として、観測量O=(X,2X,F)を
$$
F(\Xi) = \sum_{n \in \Xi } | e_n \rangle \langle e_n | \qquad( \forall \Xi \in 2^X )
$$
とする。 $| u \rangle \langle u |$ を状態とする。
このとき、
状態 $| u \rangle \langle u |$ をもつシステムに対して、観測量Oを測定したとき、測定値 n ∈Xを得たとしよう。
(D1)*ボルンの測定公理より、
その確率は、
$$
\mbox{tr}( F( \{n \}) \cdot | u \rangle \langle u | )= | \langle u , e_n \rangle |^2
$$
で与えられる。
ここまでは、誰もが納得できる。
しかし、さらに、
(D2):射影仮説を仮定すれば、測定前の状態$| u \rangle \langle u |$ は測定後に次の状態に推移する
$$
| e_n \rangle \langle e_n |
$$
すなわち、 波束(=状態)の収縮
- |u ><u | → 【測定値n】 → |en><en|
が起こる。
シュテルン=ゲルラッハの実験
シュテルン=ゲルラッハの実験は、典型的な最も普通な測定である。 その一番普通の測定において、「射影仮説」が成立しないことを以下に念押ししておく。 もちろん、 誰もが知っていることであるが、.......
電子(状態$\rho = |\omega \rangle \langle \omega |$ )は磁場の中(すなわち,$N$極と$S$極の間)を通り抜けると,図2.10のように,上かまたは下に曲がる.それをスクリーンに設置したガイガーカウンター㊤(up)か㊦(down)で検出するシュテルン=ゲルラッハの実験について考えよう.
さて,㊤(up)か㊦(down)のどちらのガイガーカウンターが鳴るだろうか?
$
e_1= \begin{bmatrix} 1 \\ 0 \end{bmatrix}, \qquad e_2= \begin{bmatrix} 0 \\ 1 \end{bmatrix},
$
射影仮説によれば、
- ガイガー㊤(up)が鳴れば、状態は、$|e_1 \rangle \langle e_1 |$に収縮
- ガイガー㊦(down)が鳴れば、状態は、$|e_2 \rangle \langle e_2 |$に収縮
となる。
しかし、単純に考えて、射影仮説が成立するわけがない
- なぜならば、電子はガイガーカウンターの中に吸収されてしまって、どういう状態なのかわからないからである。 測定とはこう言うものである
そうならば、
- 相当工夫された測定を行わなければ、射影仮説もどきすら成立するわけがない
シュテルン=ゲルラッハの実験は、典型的な最も普通な測定である。 その一番普通の測定において、「射影仮説」が成立しないことに注意せよ。
さて、測定理論(=量子言語)の主張は、
- (E):
- 測定は一回しかできない。
測定後の状態(=波束の収縮)は禁忌である。
正確には、「いつどこで測定したのか?」には拘わらないのだから、「測定前と測定後」の言葉すら意味がない。
つまり、測定者の時空はない【第67話:マクタガートのパラドックス;参照】
である。 このように、 量子言語は二元論的観念論であって、さらに「オカルト的」であることは、ここまでも何度も議論した。 オカルト過ぎて、物理から言語に分野を乗り換えたのであった。
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一見矛盾する(D2)と(E)を両立させたい。 (D2)は間違っているが、 次を主張する、
- (G):
- (D)の観測量Oではダメだが、 工夫して「観測量Oを多少変形した観測量」にすれば、「波束の収縮もどき」が実現できる
である。 波束の収縮の肯定派も否定派も納得がいくという主張だが、【B2】の
【B2】: | S. Ishikawa, "Linguistic interpretation of quantum mechanics; Projection Postulate," Journal of Quantum Information Science, Vol. 5 No. 4, 2015, pp. 150-155. DOI: 10.4236/jqis.2015.54017 (download free) また、プレプリントとしてReseach Report; Keio Math [KSTS/RR-15/009](S. Ishikawa ).( download free) , |
を読んでから判断した方がいいだろう。
上記の我々の主張は最も権威があるとされている「いわゆるコペンハーゲン解釈」に反する主張なので、納得できない人もいるかもしれない。 というよりも、「眉唾」として論文【B2】を読んでもらえないかもしれない。 そういう人は検索ワード[projection postulate]で次を検索 ([Google Search]をクリック )してもらいたい。
キーワード「projection postulate」の検索で、約40万件の中で、上記の論文【B2】 (JQIS か、または Keio Math)がトップページをとれていることを確認すれば、すこし苦労しても読む気が起きるだろう ( Keio Math の方は初等的に書いたので読みやすい)。 もちろん、トップページがとれていないと困る。 我々の主張は、コペンハーゲン解釈の最高権威は、「いわゆるコペンハーゲン解釈」ではなくて、「言語的コペンハーゲン解釈(量子言語)」である、なのだから。
量子力学の解釈問題の分野は諸子百家状態であるが、結局、射影公準(波束の収縮)で勝利をおさめた者は勝利を宣言することが出来ると考える。
- 言語的コペンハーゲン解釈の「測定は一回だけ」による射影公準は、三年間google検索のトップページを維持している