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射影仮説: 波束の収縮

第174話
射影公準(=射影仮説 = projection postulate ); 波束(=波動関数)の収縮


量子力学の解釈には、奇抜なアイデアのものあってこの全貌を整理して見渡すことなど誰もできないと思う。 しかし、ザックリ言えば、量子力学の解釈は次の2つに分類できる。
(A1):
射影仮説を採用しない(したがって、波束の収縮はない)
(A2):
射影仮説を採用する(したがって、波束の収縮はある)

標準的コペンハーゲン解釈は(A2)に属し、量子言語は(A1)流である。
正確には、量子言語は(A1)流で、波束の収縮は無いとするが、「波束の収縮もどき」はあると主張する。
したがって、
  • 量子言語は、(A1)と(A2)の折衷案


    (すなわち、$\frac{(A1)+(A2)}{2}$の微妙な立場)を主張する。


【B2】:S. Ishikawa, "Linguistic interpretation of quantum mechanics; Projection Postulate," Journal of Quantum Information Science, Vol. 5 No. 4, 2015, pp. 150-155. DOI: 10.4236/jqis.2015.54017 ( download free)



文献【B2】をここで説明するよりは、直接読んでもらったもうが手っとりばやいだろう。 しかし、 旧来の射影仮説の簡潔な説明を述べておく必要はあるだろう。
(C):旧来の射影仮説

Hをヒルベルト空間とする。
たとえば、ヒルベルト空間Hの完全正規直交系 $ \{$ $ e_n$ $ \; | \; n=1,2,...\} $を考えよう。
X={1,2,...}, 2X="Xの部分集合全体"
として、観測量O=(X,2X,F)を
$$
F(\Xi) = \sum_{n \in \Xi } | e_n \rangle \langle e_n | \qquad( \forall \Xi \in 2^X )
$$
とする。 $| u \rangle \langle u |$ を状態とする。

このとき、
(D):ボルンの測定公理+射影仮説

状態 $| u \rangle \langle u |$ をもつシステムに対して、観測量Oを測定したとき、測定値 n ∈Xを得たとしよう。



(D1)*ボルンの測定公理より、
その確率は、
$$
\mbox{tr}( F( \{n \}) \cdot | u \rangle \langle u | )= | \langle u , e_n \rangle |^2
$$
で与えられる。
ここまでは、誰もが納得できる。


しかし、さらに、
(D2):射影仮説を仮定すれば、測定前の状態$| u \rangle \langle u |$ は測定後に次の状態に推移する
$$
| e_n \rangle \langle e_n |
$$

すなわち、 波束(=状態)の収縮
        |u ><u |【測定値n】 |en><en|

が起こる。



単純に考えて、射影仮説が成立するわけがない

シュテルン=ゲルラッハの実験
シュテルン=ゲルラッハの実験は、典型的な最も普通な測定である。 その一番普通の測定において、「射影仮説」が成立しないことを以下に念押ししておく。 もちろん、 誰もが知っていることであるが、.......

電子(状態$\rho = |\omega \rangle \langle \omega |$ )は磁場の中(すなわち,$N$極と$S$極の間)を通り抜けると,図2.10のように,上かまたは下に曲がる.それをスクリーンに設置したガイガーカウンター㊤(up)か㊦(down)で検出するシュテルン=ゲルラッハの実験について考えよう.
さて,㊤(up)か㊦(down)のどちらのガイガーカウンターが鳴るだろうか?







$
e_1= \begin{bmatrix} 1 \\ 0 \end{bmatrix}, \qquad e_2= \begin{bmatrix} 0 \\ 1 \end{bmatrix},
$



射影仮説によれば、

  • ガイガー㊤(up)が鳴れば、状態は、$|e_1 \rangle \langle e_1 |$に収縮
  • ガイガー㊦(down)が鳴れば、状態は、$|e_2 \rangle \langle e_2 |$に収縮

となる。
しかし、単純に考えて、射影仮説が成立するわけがない
  • なぜならば、電子はガイガーカウンターの中に吸収されてしまって、どういう状態なのかわからないからである。  測定とはこう言うものである

そうならば、
  • 相当工夫された測定を行わなければ、射影仮説もどきすら成立するわけがない

シュテルン=ゲルラッハの実験は、典型的な最も普通な測定である。 その一番普通の測定において、「射影仮説」が成立しないことに注意せよ。

さて、測定理論(=量子言語)の主張は、
(E):
測定は一回しかできない。 
測定後の状態(=波束の収縮)は禁忌である。
正確には、「いつどこで測定したのか?」には拘わらないのだから、「測定前と測定後」の言葉すら意味がない。
つまり、測定者の時空はない【第67話:マクタガートのパラドックス;参照】

である。 このように、 量子言語は二元論的観念論であって、さらに「オカルト的」であることは、ここまでも何度も議論した。 オカルト過ぎて、物理から言語に分野を乗り換えたのであった。


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一見矛盾する(D2)と(E)を両立させたい。 (D2)は間違っているが、 次を主張する、 
(G):
(D)の観測量Oではダメだが、 工夫して「観測量Oを多少変形した観測量」にすれば、「波束の収縮もどき」が実現できる

である。 波束の収縮の肯定派も否定派も納得がいくという主張だが、【B2】の
【B2】:S. Ishikawa, "Linguistic interpretation of quantum mechanics; Projection Postulate," Journal of Quantum Information Science, Vol. 5 No. 4, 2015, pp. 150-155. DOI: 10.4236/jqis.2015.54017 (download free)
また、プレピントとしてReseach Report; Keio Math [KSTS/RR-15/009](S. Ishikawa ).( download free) ,

を読んでから判断した方がいいだろう。 


上記の我々の主張は最も権威があるとされている「いわゆるコペンハーゲン解釈」に反する主張なので、納得できない人もいるかもしれない。 というよりも、「眉唾」として論文【B2】を読んでもらえないかもしれない。 そういう人は検索ワード[projection postulate]で次を検索してもらいたい。




Google








キーワード「projection postulate」の検索で、約40万件の中で、上記の論文【B2】がトップページをとれていれば、すこし苦労しても読む気が起きるだろう。 もちろん、トップページがとれていないと困る。 我々の主張は、最高権威は、「いわゆるコペンハーゲン解釈」ではなくて、「言語的コペンハーゲン解釈(量子言語)」である、なのだから。




科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)