エルゴード仮説と等重率
第185話
エルゴード仮説と等重率
非平衡統計力学は複雑なのだから論理に飛躍があって当然、 と思えばわかった気分に直ぐなれる。 しかし、平衡統計力学(=熱力学)は一貫した辻褄を期待してしまう。 そう思うと、平衡統計力学はいつまでたってもわからない。 昔の標準的な教科書では、平衡統計力学の定式化ではエルゴード仮説と等重率が基本とされていたが、もちろん様々な定式化がありうる。 量子言語では「確率」の取扱いに細心の注意を払わなければならないので、特製のエルゴード仮説と等重率を考えなる。 他の定式化との比較は一長一短であるが、次の利点がある
エルゴード仮説
次の定理Aは平衡統計力学の中級以上でなければ理解は無理。 この定理Aは、下の定理B(幼稚園児の遊び)とほぼ同じなので、定理Bを先に読むことを勧める。
定理A(エルゴード仮説成立の十分条件①--④)
ある箱(たとえば,一辺が約30cmの立方体)の中に,約$N ({\doteqdot} 10^{24}{})$個の同一粒子(たとえば,水素分子)が入っていて,各粒子が乱雑に運動している.
このとき,次の現象①--④を観察したとする.
このとき、次の「エルゴード仮説」が成立する。
\begin{align*}
&
\mbox{任意の粒子の時間的な統計的分布}
\\
=&\mbox{任意の時刻における$N ({\doteqdot} 10^{24}{})$個の統計的分布}
\tag{1}
\end{align*}
証明(と正確な記述)は次を見よ
定理B(幼稚園の遊び)
100人の幼稚園児が幼稚園の庭で,1時間の昼休みに,ブランコ,滑り台,砂遊びをするとしよう.ただし,ブランコ,滑り台,砂場はどれも十分あって順番待ちの時間はないとする.
このとき,定理1の②--④を次のように喩える。
このとき、次の「エルゴード仮説」が成立する。
すなわち、任意の時刻で、
\begin{align*}
\begin{cases}
ブランコで遊んでいる園児の人数
&
\quad
100 \times \rho(ブ)=50人
\\
滑り台で遊んでいる園児の人数
&
\quad
100 \times \rho(滑)=30人
\\
砂場で遊んでいる園児の人数
&
\quad
100 \times \rho(砂)=20人
\\
\end{cases}
\tag{3}
\end{align*}
である。
したがって、
注意;
定理Aの仮定①--④はかなり自然なので、エルゴード仮説(1)は成立すると考えてもよいだろう。
等重率は却下;等確率の原理を採用
通常は、
わけであるが、こういう抽象的なのは著者の好みではない。 というより、これは教科書に書いてあるだけで、誰も信じていない。
そこで、「等重率」ではなくて、 次の「等確率の原理」を仮定する。
等確率の原理
ある箱(たとえば,一辺が約30cmの立方体の箱の中に,約$N ({\doteqdot} 10^{24}{})$個の同一粒子(たとえば,水素分子)が入っていて,各粒子が乱雑に運動している.
この箱から、粒子を一つ取り出すとしよう。
この「等確率の原理」ならば、見える。 幼稚園児でもわかる。
以上である。 つまり、
のが我々の提案である。
このスケッチを
で示したが、やりっぱなしになっていて、詳細を詰めていない。
と思う。
エルゴード仮説と等重率
非平衡統計力学は複雑なのだから論理に飛躍があって当然、 と思えばわかった気分に直ぐなれる。 しかし、平衡統計力学(=熱力学)は一貫した辻褄を期待してしまう。 そう思うと、平衡統計力学はいつまでたってもわからない。 昔の標準的な教科書では、平衡統計力学の定式化ではエルゴード仮説と等重率が基本とされていたが、もちろん様々な定式化がありうる。 量子言語では「確率」の取扱いに細心の注意を払わなければならないので、特製のエルゴード仮説と等重率を考えなる。 他の定式化との比較は一長一短であるが、次の利点がある
- エルゴード仮説が確率と無関係の概念であることが明らかになる
- 等重率が不要
- 確率の出所がわかる
エルゴード仮説
次の定理Aは平衡統計力学の中級以上でなければ理解は無理。 この定理Aは、下の定理B(幼稚園児の遊び)とほぼ同じなので、定理Bを先に読むことを勧める。
定理A(エルゴード仮説成立の十分条件①--④)
ある箱(たとえば,一辺が約30cmの立方体)の中に,約$N ({\doteqdot} 10^{24}{})$個の同一粒子(たとえば,水素分子)が入っていて,各粒子が乱雑に運動している.
このとき,次の現象①--④を観察したとする.
①: | 粒子たちの運動はニュートンの運動方程式に従う. |
②: | どの粒子もいろいろな場所を動いて,満遍なく運動する.たとえば,ある粒子が,いつも箱の端っこに居続けるようなことはない. |
③: | 任意のどの粒子も時間的な統計的挙動は同じである. |
④: | 任意のいくつかの粒子たちの時間的な統計的挙動は独立,すなわち,ある粒子と別の粒子の動きは連動しない. |
このとき、次の「エルゴード仮説」が成立する。
\begin{align*}
&
\mbox{任意の粒子の時間的な統計的分布}
\\
=&\mbox{任意の時刻における$N ({\doteqdot} 10^{24}{})$個の統計的分布}
\tag{1}
\end{align*}
証明(と正確な記述)は次を見よ
- S. Ishikawa, "Ergodic Hypothesis and Equilibrium Statistical Mechanics in the Quantum Mechanical World View,"
World Journal of Mechanics, Vol. 2, No. 2, 2012, pp. 125-130.(download free)
定理B(幼稚園の遊び)
100人の幼稚園児が幼稚園の庭で,1時間の昼休みに,ブランコ,滑り台,砂遊びをするとしよう.ただし,ブランコ,滑り台,砂場はどれも十分あって順番待ちの時間はないとする.
このとき,定理1の②--④を次のように喩える。
②: | どの園児も,飽きっぽくて,次々と遊びを変える.たとえば、 $\underset{\scriptsize (5分)}{\fbox{ブ}} \rightarrow \underset{\scriptsize (3分)}{\fbox{滑}} \rightarrow \underset{\scriptsize (6分)}{\fbox{砂}} \rightarrow \underset{\scriptsize (7分)}{\fbox{滑}} \rightarrow \underset{\scriptsize (9分)}{\fbox{ブ}} \rightarrow \underset{\scriptsize (8分)}{\fbox{滑}} \rightarrow \underset{\scriptsize (9分)}{\fbox{ブ}} \rightarrow \underset{\scriptsize (6分)}{\fbox{砂}} \rightarrow \underset{\scriptsize (7分)}{\fbox{ブ}} %\rightarrow %\underset{\scriptsize (3分)}{\fbox{砂}} %%\rightarrow %\underset{\scriptsize (4分)}{\fbox{滑}} $ のように遊ぶ。 すなわち,昼休み中ブランコだけで遊んでいる園児はいない. |
③: | どの園児も同じ嗜好性を持っている.したがって,3つのそれぞれの遊びの合計時間は,どの園児も同じである.たとえば, $(\rho(ブ),\rho(滑), \rho(砂))=(1/2, 3/10,1/5)$とおいて、どの園児も\begin{align*} \begin{cases} ブランコで遊んだ時間の合計 & \quad 60 \times \rho(ブ)=30分 \\ 滑り台で遊んだ時間の合計 & \quad 60 \times \rho(滑)=18分 \\ 砂場で遊んだ時間の合計 & \quad 60 \times \rho(砂)=12分 \\ \end{cases} \tag{2} \end{align*} とする. |
④: | どの園児も,「ほぼ独立自尊」の精神で遊んでいる.すなわち,他の園児の遊びに影響されることはほとんどない.たとえば,仲良し同士で,ブランコをして,次に滑り台というようにグループ行動しない. |
このとき、次の「エルゴード仮説」が成立する。
すなわち、任意の時刻で、
\begin{align*}
\begin{cases}
ブランコで遊んでいる園児の人数
&
\quad
100 \times \rho(ブ)=50人
\\
滑り台で遊んでいる園児の人数
&
\quad
100 \times \rho(滑)=30人
\\
砂場で遊んでいる園児の人数
&
\quad
100 \times \rho(砂)=20人
\\
\end{cases}
\tag{3}
\end{align*}
である。
したがって、
- 一人の園児の行動をつぶさに一時間観測して(2)がわかれば、園児全体の行動パターン(3)(=(2))がわかる。
注意;
定理Aの仮定①--④はかなり自然なので、エルゴード仮説(1)は成立すると考えてもよいだろう。
等重率は却下;等確率の原理を採用
通常は、
- 等エネルギー面$\Gamma$上に不変確率測度を考えて、その測度の下に等重率を仮定する
わけであるが、こういう抽象的なのは著者の好みではない。 というより、これは教科書に書いてあるだけで、誰も信じていない。
そこで、「等重率」ではなくて、 次の「等確率の原理」を仮定する。
等確率の原理
ある箱(たとえば,一辺が約30cmの立方体の箱の中に,約$N ({\doteqdot} 10^{24}{})$個の同一粒子(たとえば,水素分子)が入っていて,各粒子が乱雑に運動している.
この箱から、粒子を一つ取り出すとしよう。
- このとき、どの粒子を取り出す確率も同じで等しい。 すなわち、その確率は$1/N$である。
この「等確率の原理」ならば、見える。 幼稚園児でもわかる。
以上である。 つまり、
- [定理Aの仮定①--④]($\approx$エルゴード仮説)と[等確率の原理]だけから、平衡統計力学が構成する
のが我々の提案である。
このスケッチを
- S. Ishikawa, "Ergodic Hypothesis and Equilibrium Statistical Mechanics in the Quantum Mechanical World View,"
World Journal of Mechanics, Vol. 2, No. 2, 2012, pp. 125-130.(download free)
で示したが、やりっぱなしになっていて、詳細を詰めていない。
- 平衡統計力学の定式化は様々で、どれも一長一短と思う。 我々の流儀は、[ニュートン力学+壺問題(確率)]から導出するので、確率の出所が明確にわかる利点がある
と思う。