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23(上):アリストテレスの目的因

第23(上)話
万学の祖は運動・変化にも注目した。 しかし、・・・ 



あることが起こるのには,その原因がある.これを因果関係(causality)という.
  • 「火の無いところに,煙は立たない」

の格言を思い出せばよい. 当たり前のように思うかもしれないが, そんなに単純なことではない.たとえば,
  • 今朝,気分が溌剌としているのは,昨夜ぐっすり寝たからなのか? または,今から, 好きなゴルフに行く からなのか?
  • 夜が明けるから、鶏が鳴くのか。 鶏が鳴くから夜が明けるのか。

等を考えれば,「因果関係」という言葉の使い方の難しさはわかると思う. 日常会話では, 「原因(過去)」,「理由(含意)」, 「目的・動機(未来)」が 混同されて使われることが多いからである.


運動・変化の探究の嚆矢は, ヘラクレイトス(BC.540年頃 -BC.480年頃) の「万物は流転する」 やゼノンの師であるパルメニデス(BC.515年頃に生誕)の「運動は存在しない」とされている。 当然の疑問として,
  • 2500年も経ったのに,何故,彼らの名前が残っているのか?

と思うだろうが, 以前にも述べたように, 「運動・変化」が,科学(=「世界記述」)における最重要キーワードであること,すなわち,基本的には,

\begin{align*} \small
\text{
【世界記述】=
【運動・変化の記述】
}
\end{align*}


であることに最初に気づいたのは,この二人の先駆者 ─ヘラクレイトスとパルメニデス─だったからである.




①: パルメニデス・ヘラクレイトス


科学(の基本精神)は、世界の運動・変化について語ることである。



である。 
彼らの発見は最大級に称えられるべきことである。 しかし、運動・変化について更に追究したのは、 すなわち、
  •  運動・変化の根源は、何か? 

を追究したのは),アリストテレス(BC384年--BC322年)である。 アリストテレスは次のように考えた。

目的因

アリストテレスは運動・変化が起こるには、その原因があると考えた。 いくつかの原因があるが、ここでは「目的因」を考えよう。たとえば、
 

目的因(アリストテレス)

石が落下するのは,その石が下に行こうとする目的があるからである.煙が上がってゆくのも,煙は上に上がるという目的がある




たとえば、
(A):  重い石は下に行こうという強い目的を持っているから、速く落ちる。


アリストテレスの影響の下に,目的因は,1500年以上もの長きの間,「運動」の主流の考えとして生き続けた.
すなわち、
  • 「目的因」は、1500年間の科学の停滞をもたらした


この迷信が信じられていたから,「ガリレオのピサの斜塔」伝説が有名になった.

アリストテレスの「更なる追究(目的因)」は,称えられるべきことであるが,「目的因が的を射ていた」とは言えなかった. 目的因から脱却して,運動・変化の本質が「因果関係」であることを人類が発見するには,アリストテレスの1500年後のガリレオ,ベーコン,デカルト,ニュートン等の出現を待たねばならなかった.
  • 「目的因」から「因果関係」への転回

は,科学史上最大のパラダイムシフト─ 近代科学の誕生と言っても過言でない程─で,それ以後の「科学革命」を約束した.
\begin{align*} \small
\overset{\mbox{世界記述の誕生}}{
\underset{\tiny \mbox{(ヘラクレイトス,
パルメニデス)}}
{\fbox{運動}}
}
\underset{アリストテレス目的因}{\overset{
(約1500年間)}{\longrightarrow}}
\overset{\mbox{近代科学の誕生}}{
\underset{\tiny \mbox{(
ガリレオ, ニュートン)}}
{\fbox{因果関係}}
}
\end{align*}
すなわち、


 ②: 近代科学(ガリレオ,ベーコン,デカルト,ニュートン)


科学(の基本精神)は、世界の因果関係について語ることである



この②こそ、近代科学誕生の宣言と見なしていい。そして、これは同時に
  • 1500年間続いたアリストテレスの権威の失墜 

を意味した。





以上は、科学史の常識であるが、ここでは次の問題を議論したい:


問題

  • 運動・変化についてパルメニデス、ヘラクレイトスの仕事については、当然プラトンは知っていたはずなのに、なぜプラトンは発言しなかったのか? 弟子のアリストテレスが発言したのか?



解答

答えは、次の対応表を見れば直ちにわかる。




 対応表:  イデア論・(言語化)アリストテレス・デカルト・
(言語化)ニュートン・量子言語         
イデア論現実界 イデア界 /
アリストテレス/   /      形相(質料)
デカルト・カント心・現象 身体・感覚器
ニュートン/ / 状態(物=質点)
量子力学測定値 観測量・測定器 状態(粒子)
量子言語測定値観測量・測定器状態(システム)


運動と言えば、「ニュートン力学」を思い浮かべるだろう。 そうならば、
  • 質点の運動をイメージするだろう。 質点に対応する概念は、アリストテレスでは質料となる。 プラトンには、質点に対応する概念がない。

となる。
  • イデア=測定器(=絶対基準)、 形相=状態(=(位置,速度))

で、 絶対基準が動いては困るのだから、プラトンが運動に注意を払わなかったのは納得できる。



-------------------------------------------
しかし、 後日述べることであるが、
  • 形相=状態(=(位置,速度))が動くという見方 ⇒ シュレーディンガー描像

  • イデア=測定器(=絶対基準)が動くという見方 ⇒ ハイゼンベルグ描像

で、量子力学($\approx$ 量子言語)において正式なのは、 直感的ではないハイゼンベルグ描像である。


科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)