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16(上):ゼノンの逆理は未解決問題

ゼノンのパラドックス(flying arrow)の意味を説明しておきます.
もちろん、等比級数も理解できない馬鹿な哲学者が未だに悩んでいる問題ではなくて、
正真正銘の「未解決問題」です。


(A): 飛ぶ矢は止まっている


矢が飛んでいるとしよう.
この矢は,いつの時点でもその瞬間は止まっている.
いつの時点でもその瞬間は止まっているならば,いつも止まっている。
したがって,飛ぶ矢は止まっていて動かない.


さて、
  • (A)は、完璧な論理なのに、なぜ間違った結論がでてしまったのだろう?  なぜアンチノミー(二律背反)が発生したのだろう?

この唯一の解決策は、
  • 日常言語という言語体系の「論理」は、完璧でなくて、信用できない。 同じことで、日常言語という言語体系はアンチノミーを内在する。
    • 事実、「飛ぶ矢」も止まってしまう

これを認めて、次のステップ:
つまり、
  • 「論理」以前に、世界記述法が宣言されなければならない. そして、その世界記述法が指定する論理を使って、答えを出せ。   

に進むことである。
世界記述法とは、以下のようなものだった。

世界記述主義
 第2話「世界記述主義」参照 


(B):世界記述主義=「世界記述法⇒諸性質」

世界記述法から始めよ(=初めに、世界記述法ありき)
すなわち、
世界記述法(=言語体系)を先に宣言して、その下で、諸性質(「存在」や「論理(=計算)」や「運動」等)を議論せよ。

図示すれば
\begin{align*}\small & \mbox{世界記述法} \\
&
\Rightarrow \mbox{ 諸性質}  \begin{cases}
存在(=キーワード)
\\
論理
\\
運動等
\end{cases}
\end{align*}


すなわち、「飛ぶ矢(A)」がパラドックスとされている理由は
  • 世界記述法が先に宣言されなければ(すなわち、日常言語だけでは)、 あやふやなことしか言えない

が周知されていないからです。


ゼノンが提起したことは、
  • 日常言語の中の完璧な論理(A)でも,  間違った結論がでてしまうであった。 そこで、次の問題提起(C)を得る

である。


(C):ゼノンのパラドックスの意味

  • 問題「飛ぶ矢(A)」は、如何なる世界記述法の下に議論されるべきか?


です。
したがって、
  • もしあなたがこの(C)に答えられないならば、あなたはゼノンのパラドックスがわかっていない
ことになります。
  • 実は、ゼノンのパラドックスは、「世界記述法」の意味・威力が誰にでもわかる格好の例題なのです

以下にこれを説明する。

さて、次の「運動関数法という世界記述法」の発案者は不明であるが、ピタゴラスやパルメニデスやアルキメデスやアリストテレス等はその精神を理解していたと思うが、そうでないかもしれない。 そうでないとしたら、彼ら以上の天才がいたことになる。


motionfunction.png
(D):運動関数法(運動関数で記述せよ)

科学とは、世界の運動・変化について語ることである。 
すなわち、 「運動関数で記述せよ」である。
 

ここに、

  • 運動関数x(t)とは、各時刻tに対して、 位置x(t)の対応のこと

である。 

 
「関数」などという言葉を無視すれば、「運動関数法」の精神は「小学校で習う旅人算」と同じである。 もちろん、
  • 「時間」(とか「位置」とか)という言葉を含むので、運動関数法は数学ではない

ことは注意しておこう。 とは言っても、これは意外と難しいことで、「数学とは何か?」を知っていることが前提になるが、 「数学=集合論」を人類が認識してまだ100年しか経っていない。 集合論の範囲内でいくらもがいても、「時間」が出てくるわけがない。



さて、ここまで来たならば、次のように「飛ぶ矢」を解決できる。

(E):「飛ぶ矢」の運動関数法による解答

各時刻tに対して、 矢の位置x(t)が対応している運動関数x(t)を考えよう。。 各時刻tに対して、 矢の位置x(t)が対応しているからといって、定数関数とは限らないのだから、矢が止まっているわけではない。


ということです。
運動関数法(=解答(E))の発見者は天才
解答(E)は当たり前と思うかもしれない。 しかし、解答(E)の発見者は天才である。 このことは、次の「運動関数x(t)を使わない証明(F1)ー(F3)」を読めば了解してもらえるだろう:

次の(F)(つまり、(F1)-(F3))も「(A):ゼノン」と同様に日常言語の論理としては完璧な論理として通用するだろう。
(F1)
「部分の総和は,全体ではない」のだ.各瞬間の矢のありようが部分に当たる.それら部分をいくら足しあわても,全体に達しない.この全体とは,時間を通して動いている矢のありようである.「部分を足していっても,全体には達しない」。よって、矢は止まっているわけではない。

とか
(F2)
各瞬間の矢のありようは,確かに,或る一つの位置を占めている.しかし,それは「止まっている」のではない.『動いている最中』なのである。 よって、矢は止まっているわけではない。

とか
(F3)
矢がそこを通過することは認めなければならないだろう.しかし矢がそこを通過することと矢がそこに存在することとは等価ではない.それでは通過するとはどういうことか.それはそこにあると同時にそこにないことである。よって、矢は止まっているわけではない。

である。 したがって、ゼノンの(A)と上の(F)(つまり、(F1)-(F3))はアンチノミーの関係にあって、日常言語の論理はアンチノミーを内在することがわかる。 「アンチノミー」とか「論理」とかと言えるほど立派なものでないというならば、単に、
  日常言語の「論理もどき」は当てにならない
でいいだろう。 当たり前のことであるが、哲学者にとってはこのことは意外と難しいことだったみたいで、2000年後のカントすら同じ間違い(有名な「カントのアンチノミー」)をする。 
これだけしつこく言えば、「運動関数x(t)」という概念が、日常言語で百万言を費やす説明よりも勝ることを了解してもらえるだろう。 そうならば、解答(E)の発見者は天才であることは当然だろう。 しかも、並の天才ではない。 科学史上最大級の天才である。



話は逸れるが、上の(F1)ー(F3)は、次の意味で面白い。 つまり、 「ゼノンの哲学ゲーム(G)」の発生である。
(G)

(運動関数などの概念を使わずに)日常言語だけで出来る限りエレガントな「飛ぶ矢のパラドックスの解答」を示せ。 つまり、「なるべく、受ける解答」を示せ。

である。 このゲームに多くの哲学者が参加したことは事実で、このような「言葉遊び((F1)-(F3)等)」を楽しむことも哲学の一つの側面なのだと思う。  というよりも、哲学とは、未解決問題に対して「一般受けする解答」を提示するゲームかもしれないからである。 実験検証できない哲学とか芸術では、一般受けしなければ、「無い」と同じだからである。


運動関数法(という世界記述法(D))に従わずに、日常言語の中でただ論理をもてあそんでいる(A)(や(F1)-(F3)等)では, 埒が開かない。 運動関数法の威力を再確認してもらいたい。  大学の学部程度ならば、「運動関数法の威力」を自覚しているだけで十分だろう。 
  • 運動関数法の発見が偉業であることを気づかずに、あたりまえのこととして、ゼノンのパラドックスは大昔にケリがついていると信じている人もいるのだから。

しかし、大学院生ならばここで止まってはならない。 上の(E)が最終解決かどうかはわからないからで、
  •  運動関数法(D)は、最善の世界記述法か? 

が議論されていないからである。
  • 運動関数は時間から空間への写像なのだから、
    • 運動関数以前に、「時間とは何か?」と「空間とは何か?」が議論されなければならない

    からである。 つまり、 「ライプニッツ=クラーク論争」 にケリをつけてから、運動関数は導入されなければならない。

結局、2500年前に、ゼノンが我々に投げかけた問題は、次の問題、すなわち、
  •   ゼノンのパラドックスを記述するのに、最善の世界記述法は何か?  

なのです。

いつでも言えることですが、

(H):「(B): 世界記述法⇒論理」が徹底していないことで、哲学パズル(「ゼノンのパラドックス」とか「神の存在証明」とか「カントのアンチノミー」等)が生じる

のです。 続きは、明日ですね。

--------
もちろん、「運動関数法」は物理学ではない。 しかし、
  • 運動関数法が最善の世界記述法などとは誰も思っていないでしょう。 ニュートン力学のほうが有力と考えるのが普通でしょうが、「アキレスと亀」はニュートン力学の適用範囲内ではないでしょう。 そうならば、 やっぱり、
    • 「運動関数法」の方が「ニュートン力学」より勝っている

    と考えるかもしれないが、もっと優れた「世界記述法」があるかもしれない。

もちろん、 相対性理論という世界記述法の下で、ゼノンのパラドックスを議論することも出来ますが、 やはり不自然です。 
  • どの世界記述法を採用するかで、当然のことですが証明方法も異なるのです。

以上にように、 「ゼノンのパラドックスを解く」とは、「最善の世界記述法を見つける」ことです。 この意味ではゼノンのパラドックスは未解決問題ですが、「測定理論(=量子言語)が最善の世界記述法」を主張します。 ゼノンのパラドックスのまとめは 第79(上)話「ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス」を見てください


科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)