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16(中):「アキレスと亀」は未解決問題

量子言語には重要なことが山ほどあって、ゼノンのところでもたもたするつもりはないが、ブログという制限(ある程度は一般受けする話題という制限とか数学を使わないという制限とか)内では、ゼノンの話題は「世界記述法」の説明の材料としては悪くない。
このブログ全体で言えることであるが、くどいかもしれないが、次のような「言い訳」をまずしておく:
  • 2500年前のゼノンがどのような意図で、「ゼノンのパラドックス」を提示したのか、は問題にしない。 そのかわりに、 2500年間哲学者たちが「ゼノンのパラドックス」に興味を持ち続けてきた理由について議論する。

である。


念の為に、 以下のこと注意しておく。
  • ゼノンのパラドックス(運動のパラドックス)は、数学の問題ではない。 ここで、数学の問題とは、

無限等比級数、極限(lim), ε-δ論法

等のことですが、これとゼノンのパラドックスは関係ない。 もし関係があったとしても、些細なことで取り立てて言うほどのことではないでしょう。 たとえば、ニュートンが提唱したころのニュートン力学だって、「微分の定義が明確でない」等の難くせを付けることができるが、ニュートン力学(という世界記述法)の観点からは、(極限(lim)等の)数学的定義は「ニュートンにとっては些細なこと」でしょう。

「数学に関する不備」は非常に分かり易いので、ゼノンのパラドックスと数学の極限を関連付けて議論する人がいるかもしれない。 しかし、ゼノンが追究したのは、「運動」であって「数学」でない。

ゼノンのパラドックスは、数学の問題ではない  
のです。 
  • 2500年間もゼノンのパラドックスを議論している哲学者たちは、無限等比級数の和が理解できないほどのバカではない。

ゼノンのパラドックスを数学の問題として矮小化するようなことを、一流の哲学者は絶対にしません。


前回と同じなので蛇足かもしれませんが、ゼノンのパラドックス(Achilles and tortoise)の意味を説明しておきます。
以下を読めば、
  • ゼノンのパラドックスの傑作は、「flying arrow」であって、「Achilles and tortoise」はあまり出来の良いパラドックスでない。 「Achilles and tortoise」では本質的な部分より、末梢的な部分に注目しがちだからである。

ことがわかるだろう。


(A): アキレスと亀

アキレスと亀の競争を考える.

アキレス(速い走者)のスタート点より,亀(遅い走者)のスタート点は前方とする.
「よーい.ドン」で両者が同時にスタートしたとしよう.
このとき,アキレスが亀を追い抜こうとするならば,アキレスは,いま亀がいるところまで行かなければならない。
そうしたとしてもそのときは、亀がもっと先に行ってるはずである。
アキレスは更にいま亀がいるところまで行かなければならない。
これを限りなく続けても、決してアキレスは亀に追いつくことができない.


この(A)で、ゼノンが言いたかったことは、
  • 日常言語という言語体系の「論理」は、何でもありの無法地帯である。

事実、「アキレスは亀に追いつけない」と結論できてしまう

この(A)がパラドックスとされている理由は、

(B): 世界記述の優先性【すなわち, 世界記述⇒論理】

が周知されていないからです。
すなわち、
    • 日常言語の中で「論理」をこねくり回してもダメ

    が周知されていないことです

    ゼノンが提起したことは、


    (C):ゼノンのパラドックスの意味

    • 問題「アキレスと亀(A)」は、
      如何なる世界記述法の下に議論されるべきか?


    です。
    したがって、
    • もしあなたがこの(C)に答えられないならば、あなたはゼノンのパラドックスがわかっていない
    ことになります。

    以下にこれを説明する。

    さて、次の「運動関数法という世界記述法」の発案者は不明であるが、ピタゴラスやパルメニデスやアルキメデスやアリストテレス等はその精神を理解していたと思うが、そうでないかもしれない。 そうでないとしたら、彼ら以上の天才がいたことになる。 並の天才ではなくて、科学史上最大級の天才である。


    motionfunction.png
    (D):運動関数法(運動関数で記述せよ)

    科学とは、世界の運動・変化について語ることである。 
    すなわち、 「運動関数で記述せよ」である。
     

    ここに、

    • 運動関数x(t)とは、各時刻tに対して、 位置x(t)の対応のこと

    である。 

     
    「関数」などという言葉を無視すれば、「運動関数法」の精神は「小学校で習う旅人算」と同じである。




    さて、ここまで来たならば、次のように「アキレスと亀」を解決できる。

    (E1):「アキレスと亀」の運動関数法による解答

    各時刻tに対して、 

    • アキレスの位置x(t)=vt, 亀の位置y(t)=γ v t + a

    として運動関数x(t)とy(t)を定める( a, v >0、0 < γ < 1 )。 ここで、方程式
    • (E2):  x(s)=y(s)

    を解けば良い。 簡単な代入計算で、
    • 時刻s= a/((1- γ )v) 

    でアキレスは亀に追いつく。 



    【別解】:方程式(E2)の解き方は、代入計算でなくても、無限等比級数で、
    • s= (a/ v ) (1 + γ + γ² + γ³ +⋯) =a/((1- γ )v)

    と計算してもいいだろう



    補足 

    「アキレスと亀」は、本質の部分〈世界記述法、 すなわち、方程式(E2)を得るまでの議論〉を見過ごさせるように、等比級数という厚化粧で塗りたくってしまっていることがわかるだろう。
    しかし、その厚化粧のお陰で2500年間も注目されて続けてきたと言えなくもない。 
    しかし、スッピン(=飛ぶ矢)が一番美しい。



    運動関数法という世界記述法(D)を自覚しないで、ただ論理をもてあそんでいる(A)では, 袋小路に嵌ってしまうのです。やはり、重要なのは、「世界記述法⇒論理」、すなわち、

  • 論理から始める(A)ではダメで、論理する前に、世界記述法を宣言する
    ことです。

    もちろん、 これが最終解決ではありません。 
    • 運動関数法(D)は、最善の世界記述法か?

    が議論されていないからです。  もちろん、「ライプニッツ=クラーク論争:時空とは何か?」がスルーされているので、運動関数法(D)は不十分です。
    結局、2500年前に、ゼノンが我々に投げかけた問題は、問題(C)で、すなわち、
    •   ゼノンのパラドックスを記述するための最善の世界記述法は何か?  

    で、 これは現代的な意味でも未解決問題です。


    --------
    前回(飛ぶ矢)の繰り返しですが、「ゼノンのパラドックスを解く」とは、「最善の世界記述法を見つける」ことですね。 そして、「測定理論が最善の世界記述法」が、本書の主張ですね。 
    ゼノンのパラドックスの解決は、 「量子言語:時空とは何か?」にケリをつけてから、 「量子言語:ゼノンのパラドックス」ですね。



    科学哲学(二元論的観念論)

    量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

    目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)