記事一覧

42:プリンキピアと地動説

第42話
「天動説 vs. 地動説」の意外な決着の仕方

ニュートンによる「プリンキピア(1687年)」は、科学史上最も有名な著作である。力学の三法則と万有引力の法則(=逆二乗則)から「ケプラーの三法則(惑星の楕円軌道等)」等を導いている大著であるが、初等幾何学を基軸として記述されていて、現在の力学の教科書のように微分方程式が使われていない。
微積分学を作り上げた張本人のニュートンが、
  • なぜ微積分学を駆使してプリンキピアを著わさなかったのか

は不可思議としか言いようがないが、ニュートンに
  • 微積分学の発見よりも、ニュートン力学の発見の方が大きい

と言われたら、反論のしようがない。
プリンキピアを微積分学で書き換える仕事は、ライプニッツ、ベルヌーイ、オイラー、ダランベール、ラグランジュ、ラプラス等に引き継がれて完成された。

  •   ニュートンのパラダイムシフト  
    ----------------------------------------------------------


そうだとしても、次の科学史上最大のパラダイムシフトはニュートンに依る:
  • 運動【運動関数法:(パルメニデス, ゼノン,アリストテレス)】 
     因果関係【運動方程式法(ニュートン)】


すなわち、次のパラダイムシフトが実現した。

(A): ニュートン力学的世界観


アリストテレス的
世界観(目的因)
運動関数法
ニュートン的
世界観(因果関係)

運動方程式法

すなわち、ニュートン力学で、
  • ニュートンの運動方程式 + 万有引力の法則
である。




さて、ここで「天動説 vs. 地動説」に戻ろう。 要点は以下のとおりであった。

  • 「天動説 vs. 地動説」は測定決着不可  
    ----------------------------------------------------------

運動は相対的のものなのだから、
  • 地球を中心とする座標系をとれば、太陽が回っている(天動説)
また
  • 太陽を中心とする座標系をとれば、地球が回っている(地動説)
で、単に、座標系の取り方の違いだけではないか?
そうならば、ケプラーやガリレオが幾ら精密に天体観測しても、
  •   座標系のとり方の違い 

と言われてしまえば、それまでである。つまり、

(B): 精密観測データが幾らあっても、「天動説 vs. 地動説」は決着できない

であった。 
したがって、
  • ガリレオの裁判(異端審問所審査:1633年)の時点で、
    教会サイドはすべてを水掛け論にして、頑張り切れた


と思う。 「水掛け論」にしてしまえば、教会の勝ちになるはずであった。


さて、 ここで、
  •   ニュートン登場  

である。 


先に進む前に、次を確認しておく。  世界記述(至上)主義
第2話「世界記述主義」参照、 (第16(上)話「ゼノンのパラドックス」参照)、 (第23(下)話「三段論法を信じますか?」参照)


(A):世界記述主義


世界記述法から始めよ(=初めに、世界記述法ありき)
すなわち、
世界記述法(=言語体系)を先に宣言して、その下で、諸性質(「存在(=キーワード)」や「論理(=計算)」や「運動」等)を議論せよ。


である。
すなわち、
  • 世界記述法が先に宣言されなければ(すなわち、日常言語だけでは)、
    あやふやなことしか言えない


である。


さて、本題に戻ろう。
ニュートンはプリンキピアで次を主張したと読み取れる。 と言うより、今さらプリンキピアを読むとしたら、
  • 「ニュートンの主張は、次の(D)だけ」

と読みたい。

(D): ニュートンの主張(プリンキピア)


ニュートン力学(A)という世界記述法の下に天体問題を議論するときには、

  • 太陽を固定する座標系を想定したほうが、天体問題の数式の計算が圧倒的に楽になる
である。
したがって、「中心」とか「回る」という言葉の定義すら、ニュートン力学という世界記述法によるわけで、これは上の(C)で念を押したことである。


ケプラーやガリレオが、地動説を唱えたのも、彼等が「ニュートン力学もどき」をイメージしていたからなのだと思う。さらに言うならば、最も素朴な力学観によって、地動説を唱えたのがアリスタルコスであった(第24(下)話)。
 
それにしても、教会側も、さすがに、「ニュートン登場」は想定外だったに違いない。

  • 「天動説 vs. 地動説」は「測定」の問題だったはずなのに、
    天才ニュートンが「世界記述法」の問題にすり替えてしまった

のだから。念押しすると、
(E): 「天動説 vs. 地動説」では、最初は、真偽を問うていた問題のはずだったのに、ニュートンが
  • ニュートン力学という世界記述法において、どちらを想定したほうが「計算が楽か?」という形而上学的問題
にすり替えてしまったのである。

このブログでは、一貫して、「初めに、世界記述ありき」、すなわち、「世界記述法無しの議論は、袋小路に嵌る」の立場を貫く。

そうだとすると、 つぎの定説とされている「三大パラダイムシフト」も考え直さなければならないかもしれない。

(F): 三大パラダイムシフト


(1)
アリストテレス的
世界観(目的因)
ニュートン的
世界観(因果関係)

(2)
プトレマイオス的
天動説
コペルニクス的
地動説

(3)
キリスト教的
アダムとイヴ
ダーウイン的
進化論


上で議論したように、(2)は(1)の系にすぎないからである。 もちろん、(1)が大きすぎてそれを強調するために重複を厭わずに可視的なexampleとして、(2)も付け足したという意味はある。 また、(3)も「キリスト教にとって衝撃的だった」という意味で、パラダイムシフトとされているだけかもしれない。

----------------
プリンキピアで印象的だったのは、潮汐の理論ですね。 一日に2回の大潮AとBがあります。 下図の大潮Aは月の引力で海面が引っ張られるので納得できます。しかし、大潮Bは不思議な感じがするかもしれない。 地球と月を合わせたものの重心はC点で、したがって、地球も月も「Cを通る軸」を中心として回ります。よって、「重心Cを通る軸」を中心とする回転の遠心力で、大潮Bは生じるのです。

地球の自転の影響等が考慮されていませんが、大筋はこれでOKでしょう。 それにしても、こんなことまで、プリンキピアに書いてあるとは、驚き。




サプリ:
地動説の勝利は、ダブルスタンダード(普及と理論)で理解すべきかもしれない。


星の王子様(サン=テグジュペリ 作、内藤濯 訳(岩波書店))の有名な一節:

  • かんじんなことは、目に見えないんだよ。


を思い出せば、次の(A1)と(A2)を考えたくなる:

(A1):
啓蒙・普及における「目に見えること」の説得力:
逆行現象や年周視差の煩雑さを嫌がる人が多かったことが、地動説の一般への普及の実際の原因。 ただし、教会に「座標系の取り方の違い」と頑張られれば、水掛け論になる。

(A2)
地動説の勝利の本当の理由:
かんじんなことは、「アリストテレスの世界観からニュートンの世界観へのパラダイム・シフト」で、この必然として、ニュートン力学に都合のよい座標系(地動説)が有力となった


このようなダブルスタンダード(普及と理論)の理解が、順当かもしれない。
ここまで、(A2)を強調しすぎた。


さらに、付け加えるならば、


$(B1):$目に見えること:
「天動説 vs. 地動説」, ガリレオのピサの斜塔伝説、ニュートンの林檎、


$(B2):$かんじんなこと:
ニュートン力学へのパラダイムシフト


なわけで、「天動説 vs. 地動説」は(B2)の可視化の一つにすぎないとも言える。 

長くなってしまったが、 要するに、
  • キリスト教以上の思想(世界観)であるニュートン力学をぶつけなければ、「天動説 vs. 地動説」で天動説を打破できない

である。


科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)