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57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質

第57話
 哲学者の仕事は、哲学を延命させること 
役に立たない二元論的観念論がなぜ消滅しなかったのか?

すこし穿って、考えるならば、
(A):デカルトの業績は、ニュートン登場の環境を整えることだった。 すなわち、
  • 「霊力」や「神」や「もののけ」などの、排除だった

そして、この意味では、「我の存在」とか「デカルト図式」は方便に過ぎなかった。
と言えなくもない。 事実、
(B):「我の存在」とか「デカルト図式」が、科学において本質的な役割をしたことは一度もないはずである。
したがって、
  • ニュートン登場で、前座のデカルトの役割は終わった 

と考えてもおかしくないと思う。
しかし、不思議なことに、
  • 「我の存在」とか「デカルト図式」とかを真に受けた人たち

がいた。 たとえば、次のロックである。

  •   ロックの野望  
    ----------------------------------------------------------

1689年 「人間知性論」ジョン・ロック(1632―1704) イギリスの経験論の哲学者、政治思想家。

ロックの「人間知性論:序文より」

学会は今日、比類ないニュートン氏のような巨匠を生む時代。 こんな時代に地面をすこし掃除して、下働きができれば、もう大望というものです



という「謙虚」な出だしから始まる「認識論」の誕生である。 哲学者の「謙虚さ」を額面どおりに信じる者はいないだろう。 すなわち、デカルト図式の「物」の部分では、ニュートンにしてやられてしまった。
しかし、ロックは、
  • デカルト図式の「我」の部分では、自分が頂上を極める
  • 理系オタクのニュートンの後塵を拝するわけにはいかない

と考えたに違いない。 


そうだとしても、

(C):「認識論」を本格的に究明するには300年以上早すぎた

わけなのだから、 その成果を期待する方がおかしいかもしれない。 しかし、
  • 哲学者の仕事は、哲学を延命させること

と割り切れば、ロックの功績は絶大である。

  •   ロックの仕事として、次の①と②が有名  
    ----------------------------------------------------------

 ①タブラ・ラーサ(ラテン語: tabula rasa) 白紙状態 
すなわち、
  • 初めは、白紙状態の「心」も、いろいろと見たり聞いたりして、「観念」が生じる

ということらしい。 現代の認知科学・脳科学から見ると、何を言っているのかわからないが、ともかく、これが英国経験論の始まりである。

次回に述べることであるが、 「認識」ではなくて、「言語」を想定するならば、いろいろな言語体系(日常言語、数学、ニュートン力学、フォートラン、・・・)のなかで、
  • 日常言語はタブラ・ラーサ的である

赤ん坊が生まれたときは、日常言語をまったく知らないタブラ・ラーサ状態で、それから試行錯誤によって日常言語を習得していくわけだからである。

 ②第一次性質と第二次性質 
ここで、

(D1):第一次性質・・・ものの重さ、形、温度、等
(D2):第二次性質・・・甘い、すっぱい、青い、温かい、等
である。 
測定理論の言葉で言えば、
  • 第一次性質=状態、  第二次性質=観測量

で、下図のようになる。


この時点で、次の対応表にロックが加えられたと考えたい( 第22(下)話「プラトンとアリストテレスの融合」参照)。

  •  (E):対応表:イデア論・(言語化)アリストテレス・デカルト・(言語化)ニュートン・ロック・バークリー・カント・統計学・量子言語
    第2(下)話「世界記述主義」の(E)参照
    イデア論現実界 イデア界 /
    アリストテレス/   /      形相(質料)
    スコラ哲学後の普遍 前の普遍 内の普遍
    デカルト心・我 身体・感覚器 (物)
    ニュートン/  / 状態(物=質点)
    ロック/ 第二次性質 第一次性質
    バークリー測定値 第二次性質
    カント現象 知覚 物自体
    統計学標本   / パラメータ(母集団)
    量子言語(≒量子力学)測定値 観測量・測定器 状態(システム)

ここで、
(F):ロックは、二元論的観念論のであるイデアに相当する概念を、初めて「分かった気分にさせてくれる言葉(=第二次性質)」で表現した。 やはり
  • イデア、 前の普遍、 身体

では、分かった気にはならないわけで、 
  • ロックの業績は称えられてよい

と言うより、実際に称えられているわけで、高校の倫理社会の教科書にも、「第一次性質と第二次性質」が記載されているのは、これが二元論の根幹を形成しているからである。 



こうして、(C)で述べたように、
(G):まったく成果が期待できない「認識論という延命哲学」が始まった
わけであるが、このブログでは、
  • 「瓢箪から駒」 

というストーリーを用意している。
と言うよりは、
  •  二元論的観念論の歴史は、プラトン以来「瓢箪から駒」の連鎖の歴史  

と思う。


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ロックに始まるイギリス経験論の主張の中で、現代の脳科学の成果と重なる部分は、割り引いた評価になるところがないわけではない。 しかし、上のデカルト図式で見るように、
  •  測定理論にとっては、ロックは願ってもないこと(②:第一次性質と第二次性質)を言ってくれた
わけですね。



念の為に補足します。 「歴史はすべてフィクションである」は誰の言葉か忘れましたが、常識的に正しいでしょうね。 このブログの立場(=「量子言語」の立場)からは、次を「哲学の本流」と思いたい:

(H):パルメニデス→プラトン→トマス・アキナス→デカルト→ジョン・ロック→カント→ウィトゲンシュタイン
ですね。 理論物理学の発展と同様に哲学の発展も「拡散ではなくて収束する方向に向かう」と信じたいのです( 第4(下)話「言語ゲーム:大きな物語(B)」参照)。 もしこれを信じないならば
(I):「二元論的観念論とは、何だったのか?」とか「哲学史2500年は、一体何だったのだろうか?」
に答えることができないと思う。 「哲学者の仕事は、哲学を延命させること」が冗談でなくなってしまう



科学哲学(二元論的観念論)

量子言語(=測定理論)は、統計学と量子論を合わせた程度の強力な記述力を有する言語である。 量子言語の習得には、いろいろなアプローチの方法があっていい。 このブログでは、数物には関わらず、哲学【二元論的観念論】をメインに量子言語を紹介して、西洋哲学史の本流は常に量子言語に向かって進歩してきたことを確認する。ブログとは、一旦書いてしまうと、訂正するのが億劫になるものである。 したがって、本ブログと大幅な変更があるわけではないが、現時点での正式バージョンは【Western philosophy(PDF)】を見よ。

目次

  • 0:【Home】リンク付き目次(スマホ利用者用)
  • 1:量子力学の観測・解釈問題の解決
  • 2(上):科学哲学とは? (形而上学;統計学;量子力学)
  • 2(下):世界記述(至上)主義
  • 3(上):1+1=2:発明王エジソン;形而上学
  • 3(中):論理実証主義と形而上学
  • 3(下):ケルヴィン卿の形而上学
  • 4(上): 測定理論(=量子言語); 世界記述法の分類
  • 4(中):ソーカル事件の「脱構築」
  • 4(下)論考、知の欺瞞、量子言語
  • 5:古典力学的世界観;量子力学的世界観
  • 6:科学と統計学;量子言語;
  • 7:赤い糸 : 量子力学の観測と因果関係
  • 8:運命の量子的出会い(観測と因果律)
  • 9:コペンハーゲン解釈は虚構;因果と測定
  • 10: $[$一元論、二元論$]$×$[$実在論、観念論$]$
  • 11:離別の予感(測定と因果)
  • 12:ピタゴラス(万物は数)
  • 13:パルメニデスとヘラクレイトス;運動・変化
  • 14: 科学とは何か? 運動;因果律;確率;測定
  • 15:パルメニデスの理屈っぽさ: ゼノンのパラドックス
  • 16(上):ゼノンのパラドックスは未解決問題
  • 16(補): ハジキの公式:形而上学的命題
  • 16(中):「アキレスと亀」は未解決問題
  • 16(下): ゼノンのパラドックスの必然性
  • 17(上):存在論(パルメニデス)
  • 17(下):存在とは何か?(パルメニデス)
  • 18(上):[人気No.3]哲学は進歩したか?
  • 18:無知の知:ソクラテスの詭弁
  • 19:人間は万物の尺度:プロタゴラス×ソクラテス;倫理哲学
  • 20:イデア論:プラトンの詭弁
  • 21(上):プラトンのイデアは絶対基準・測定器のこと
  • 21(下): 西洋哲学はプラトンの脚注
  • 22(上):万学の祖アリストテレス;形相,質料
  • 22(下): プラトンとアリストテレスの融合;スコラ哲学
  • 23(上):アリストテレスの目的因
  • 23(下):三段論法を信じますか? アリストテレス
  • 23(補):必要条件と十分条件
  • 24(上):アリスタルコス(古代の地動説);アルキメデス
  • 24(下):アリスタルコス:古代の地動説
  • 25(上):ユークリッド幾何学--平行線の公準
  • 25(下):言語と数学;公理主義
  • 26:エラトステネス:古代最大の測定者
  • 27:総括〈ギリシャ vs.アレクサンドリア〉
  • 28:天動説(プトレマイオス)
  • 29:古代科学の三つの集大成
  • 30:アウグスティヌスとプラトン哲学
  • 31:アウグスティヌスと時間論;告白
  • 32:十字軍:イスラム文化(アリストテレス)の流入
  • 32.5: 位取り記数法(アラビア数字;ゼロの発見)
  • 33:神の存在証明(アンセルムス);スコラ哲学
  • 34:普遍論争と「存在・実在」;スコラ哲学
  • 36:[人気No.5]オッカムの剃刀(節約の原理)
  • 37:パラダイムシフト;コペルニクスとニュートン
  • 37(中):プラトンとアリストテレス;アテナイの学堂
  • 37(下):帰納主義;イドラ;ベーコン;経験論の祖
  • 38:天動説から地動説へ
  • 39:地動説・天動説とは、何か?
  • 40:ガリレオと地動説;ピサの斜塔;裁判
  • 41:ガリレオからニュートンへ
  • 42:プリンキピアと地動説
  • 43:因果関係とは何か?
  • 44:実在的因果関係(物理学)
  • 45:認識的因果関係(ヒューム・カント)
  • 46:数学的因果関係(ピタゴラス教団)
  • 47:言語的因果関係
  • 48:我思う、 ゆえに我在り(方法序説:デカルト)
  • 49:コギト命題からデカルト図式へ
  • 49下:物心二元論・心身二元論
  • 50:オカルト図式?
  • 52:中二病(デカルトの懐疑)
  • 53:世界記述と非ユークリッド的転回
  • 54:二元論・観念論に対する誤解
  • 56:ジョン・ロック$[$人間知性論$]$タブラ・ラーサ
  • 57:イギリス経験論の祖:ジョン・ロック;第ニ次性質
  • 58:大陸合理主義:ライプニッツ; 生得説
  • 59(上):日常言語はイギリス経験論的
  • 59(下):量子言語はカント哲学的
  • 60:唯心論:バークリー;存在するとは知覚されること
  • 61:懐疑主義:ヒューム
  • 62:実在的世界記述法と言語的世界記述法
  • 63:量子力学の道具主義化
  • 64:ライプニッツ・クラーク論争; 時空とは何か?
  • 65:コペンハーゲン解釈
  • 66:原点回帰:再びパルメニデスへ
  • 67:マクタガートのパラドックス:時間論:時制
  • 68:アウグスティヌスの時間論:主観的時間
  • 70:カント:二律背反(アンチノミー)
  • 71:「我思う、ゆえに我あり」を疑う
  • 72:カントの物自体; 模写説から構成説
  • 73:コペルニクス的転回;純粋理性批判
  • 74:純粋理性批判; アプリオリな総合判断;超越論的観念論
  • 78:カント登場の必然性
  • 78(補): 功利主義;ベンサム;最大多数の最大幸福
  • 79(上): ラプラスの魔:ゼノンのパラドックス
  • 79(下): ホーキング博士の哲学批判
  • 80:カントール:集合論
  • 80(下):空集合と選択公理
  • 81:数理論理学:数学のような、哲学のような
  • 82:弁証法という諺:ヘーゲル
  • 825: プラグマティズム(実用主義)のジレンマ
  • 83:論理哲学論考;ウィトゲンシュタイン
  • 84:言語論的転回;言語哲学
  • 86: 量子力学の解釈とは何か?
  • 88:量子言語の記述力;言語ゲーム;語りえぬもの;ウィトゲンシュタイン
  • 88.5:[人気No.1]心身問題の解決
  • 89: ボーア × アインシュタインの量子力学論争
  • 90: 二つの量子力学
  • 91: 数学の三大発見
  • 92: フォン・ノイマン;量子力学
  • 93: アリストテレス、ライプニッツ、フォン・ノイマン
  • 94: 確率の歴史
  • 95:確率の哲学: 確率とは何か?
  • 96: 確率論 vs. 量子言語
  • 97: 確率論: 二元論の消去
  • 98: 主観的時間; 科学哲学論争
  • 99: フィッシャーの最尤法
  • 100: 科学哲学の大きな物語の終焉
  • 補101:測定・推定・制御の科学哲学
  • 補102:ベイズ統計・ベイズの定理
  • 補103: 確率論と統計学
  • 150:量子力学再入門: ヒルベルト空間法
  • 152:エルミート行列のスペクトラル分解:量子力学再入門
  • 154:スピン:量子力学再入門
  • 156:ハミルトニアンの量子化:量子力学速習
  • 158:同時測定と可換条件:量子力学再入門
  • 160:ド・ブロイのパラドックス:量子力学再入門
  • 162:EPRパラドックス:量子力学再考
  • 164ベルの不等式:量子力学再考
  • 166:[人気No.4]ハイゼンベルグの不確定性原理はキャッチコピー
  • 168:EPRパラドックスの結末
  • 170:ハイゼンベルグの不確定性原理とEPRパラドックスは矛盾?
  • 174:[人気No.2]射影仮説:波束の収縮
  • 176:量子デコヒーレンス
  • 178:ハイゼンベルグ描像
  • 180:正準交換関係の不確定性関係
  • 182:行列のトレース
  • 184:ベルトランの逆説
  • 190:全射・単射・全単射
  • 192:」単射(順列)・全単射(スターリング数)
  • 500:量子言語入門(大学院講義ノート)